「いったあ……っ」
「それはこっちの台詞」
「……え!!!!??」
次に目を開いた時、私はどこか見知らぬ部屋にいた。
倒れた姿のまま、周りを見渡す。
大きなベッド、机、椅子、棚にはたくさんのトロフィー。
そしてなぜか床には私のラケットバッグが転がっている。
話しかけられてようやく精市を下敷きにしていたことに気付いた私は、慌てて立ち上がった。
「ご、ごめん」
「重い」
「なっ……!」
私そんなに重くない!!
思わずカチンときて睨みつける。
けれど精市の顔を見たみたとたん我に返って青ざめた。
「ここどこっ!!!??」
「俺の部屋」
「え……私までなんで!!?」
「つい、ね」
「ついじゃないよ…!」
どどどどうするのコレ。
今度は私がトリップしちゃったってこと?
え……えええええー!!!!??
「でも俺が黒魔術に失敗してソラの家に飛ばされたあの時から5分しか時計が進んでないな」
「やっぱり時間の流れが違うのかな…」
「……そうかも」
こっちでは5分。
むこうでは1ヶ月。
……すごい違いだ。
「はあ……」
「仕方ないだろ、あんな顔されちゃ1人で残しておけないし」
「で、でも……っ」
「大丈夫。大事なラケットは一緒に持ってきたし」
「いやそういう問題じゃなくて」
「ああ、服とかも持ってきた方が良かった?」
「そうだけどそうじゃないよ!」
確かにラケット持ってきてくれたのは嬉しい。
あのラケットには大事な思い出が詰まっているし、最後にお母さんからプレゼントされたものだし。
私の中で一番大切なものだから。
でもでもっ、だからってなんの相談もなく私まで連れてこられたら、私だって予定とかあったのに…っ!
「落ち着いて」
「落ち着いてなんていられない!」
「……ソラ、」
「な、なによ!」
「もう……向こうでのことなんて考えなくていい」
「……っ!」
まるで見透かされていたかのような台詞に、言葉を失った。
もう1人で考え込まなくていい。
ひとりぼっちで寂しかった世界には戻らなくていい。
……そう言ってるみたいだった。
「もう1人じゃない」
「せ、いち……」
「この世界には俺がいる。これからも、ずっと一緒にいてあげられる」
「……っ……」
「今度はこの家で、一緒に暮らそう?」
もう、1人じゃない。
そう考えたら気持ちが楽になった。
これからも精市といられる。
それだけで、充分満たされる。
「うん……っ」
お母さんお父さん、ごめんなさい。
私………私ね。
これからはこっちの世界で頑張っていくよ。
1人じゃない、だから大丈夫。
精市と一緒なら。
epilogue
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