行かないで、そう呟いた言葉はあなたに届いただろうか。



「そういうこと言わないで。帰りたくなくなるだろ」

「……なら帰らなければいいのに」

「ダメ、もう潮時なんだ」

「潮時……?」

「そう、何事にも潮時はあるんだよ」

「…知らない、そんなの」



精市を困らせたいわけじゃないのに、なんでこんなわがまま言っちゃうんだろう。

泣くな、私。
最後くらい笑顔で見送らなくちゃ。

ありがとうくらい言わなくちゃ。



「…っ……今まで、ありがとう」

「うん」

「おかげで、1ヶ月間寂しい思いをしなくてすんだ、よ。ほん、と、に、ありがとう…っ」



ぽたり、堪えきれずに涙をこぼした。
やっぱりダメだ、笑顔なんて作れない。

私、精市がいないと、



「さみし、い、よう…っ」



溢れる気持ちを言葉に表したら昨日みたいに、ぎゅう、と抱きしめられた。
これが最後、そう感じて私も素直に抱きしめ返す。

この時間がずっと続けばいいのに、な。



「まったく、ソラは俺がいないと本当に泣き虫だな」

「…………うるさい」



すき。
だいすき。

小さく呟いて力を込めた。

そして彼は、「知ってるよ」なんて呟く。



「え?……あ…っ!」



突然、奇妙な浮遊感に襲われ、私の視界は真っ暗になった。




今までありがとう





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