家に帰ってからも私の心は空っぽだった。
何も喉を通らなかったので夕飯はいらないと伝えると、精市に「あんなに食べ歩いてたら当たり前。だからほどほどにしろって言ったのに」と怒られてしまった。
だって精市が、あのタイミングで別れを言い出すから……なんて口が裂けても言えなかったけれど。
「帰る…………かあ」
ぼんやり、天井を見つめる。
私は今リビングでソファーに腰掛けていた。
精市はというと、お風呂の真っ最中。
私は先に済ませた。
……もやもやして気持ち悪い。
本当に馬鹿だなあ、自分。
離れたくないなら引き留めればいいのに。
明日帰っちゃうんだよ?
そうしたら私はひとりぼっちになって、お母さんもお父さんも精市もいない生活がまた始まる。
………そんなの、やだ……!
ふいに精市がお風呂から出た音がして、私ははっと我に返る。
もう夜も深いから、先に休ませてもらおうとリビングを出た。
そして、廊下で彼に出くわす。
「先に寝るね」
「あれ、今日は一緒に寝ないんだ」
「いやいや、寝ないから。なにその今までずっと一緒に寝てたみたいな言い方」
「ふふっ」
「…わっ」
とんっ、廊下の壁に押し付けられる。
精市と廊下の間で身動きできなくて、私はパニックに陥った。
なにしてんの、私たち。
「な、に?」
「寝ないの?」
「しつこいなあ……」
「言っておくけど、今日は下心あるよ。最後の夜だしね」
不敵な笑みで見下ろされてしまった私。
どきん、胸が高鳴る。
気を抜いたら、許してしまいそうだった。
「な、なおさら嫌だよ!!」
「はは、冗談冗談。おやすみ」
「………もう」
冗談きついよ。
顔は熱いし、胸はドキドキするし。
私をこんなに好きにさせておいて、どう責任取ってくれるの。
今更、帰るなんて………
ねえ、私はどうしたらあなたを引き留められる?
引き留めたい心がある
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