『俺、明日帰るよ』
その言葉だけが頭の中で何回もリピートされる。
昨日精市から告げられた、この言葉。
帰る……っていうのは、元の世界にっていう意味だよね?
なんで今頃………
いや、元々1ヶ月間っていう約束だったじゃない。
なにを勘違いしてたの?
まさか、ずっと精市といられるなんて………そんなこと、無理に決まってるのに。
私たちは住む世界が違う。
それは分かっていたことでしょう?
……ぐるぐるとそんなことばかり考えていて、昨日はよく眠れなかった。
それに、もうとっくに起きなきゃいけない時間を過ぎてるのに、体が重くてなかなか起きられない。
でも、ご飯作らなきゃ……
深い溜め息をつきながら、私は着替えを済ませてリビングへと向かった。
「……あれ?」
「おはよう。ご飯出来てるから座って」
「は、はい」
テーブルの上に綺麗に並べられた料理を見て、珍しいこともあるものだと感心した。
……って、そういえばこの間寝坊した時も作ってくれたっけ。
相変わらず美味しそうだなあ。
「……どういう風の吹き回し?」
「早く起きたからだよ。俺の手料理を食べられるなんてレアだからね、ゆっくり味わって食べろよ」
「はあ?なにそれ」
つい、笑みがこぼれる。
さっきまでくよくよ悩んでいたのが馬鹿らしくなった。
「おいしい」
「当たり前だろ、俺が作ったんだから」
「うわあ、自画自賛」
「悪い?」
「悪くないけど……あ、そういえばなんで1ヶ月間だったの?」
「色々と体力使うんだよ、黒魔術もね」
「ふうん…」
やっぱり、彼は不思議な人だ。
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そして時間というものはあっという間に過ぎていって、いつの間にかお昼の時間を過ぎていた。
もっともっと精市と話したいことあるのに。
腹黒くて時々変態な彼だったけれど、この1ヶ月間ずっと一緒にいてすごく楽しかった。
すごく充実した毎日だった。
………でもそれも今日までだなんて。
「そろそろ行くよ」
そう言ってソファーから立ち上がる精市を見て、ずきん、胸が痛んだ。
彼はぶつぶつと何語だか分からない言葉を呟き始めて………そしてその時、私は彼の周りが光ってきているのに気付いた。
え、どうなってるのコレ…………?
不思議に思う反面、やっぱり帰ってほしくないという気持ちが強くなって。
ぐいっ、精市の腕を引っ張って主張する。
「せ、いち……っ」
「そんな顔するなよ、ブサイクな顔がもっと醜くなる」
「…うう……最後までひどい」
「ふふっ」
この笑顔を見れるのも、今日まで…………かあ…
「……行かない、で」
「…………」
私が珍しく素直になれた瞬間だった。
小さく呟いた、行かないで
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