「えーっと、確かこの辺に………あ、あった!」
「わざわざそこまでしなくても…」
夏祭り当日の、午後3時頃。
私はお母さんの部屋のクローゼットを漁っていた。
ようやくお目当てのものを見つけ出して、精市の前に広げる。
……それは藍色をした男物の甚平だった。
少し昔のものだけど毎年クリーニングに出しているし、多分大丈夫だろう。
だってせっかく夏祭りに行くんだもん。
たまには着てみたいじゃない。
「うーん、少し大きいかなあ」
「んー……なんとか大丈夫」
「そう?じゃあ精市はこれ来てね」
「ソラは?」
「こっちの青い浴衣!」
「ふうん……着られるの?」
「昔お母さんに教えてもらったことあるから自分で着れるよ」
……とは言っても随分昔のことだから、思い出しながら着なくちゃだけどね。
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あれから2時間後。
私たちは夏祭りの人混みの中にいた。
「………人多すぎでしょ…あっ、すみません」
ドンッ、人にぶつかってしまって頭を下げる。
その拍子に精市を見失ってしまって、きょろきょろと周りを見渡した。
「迷子になるよ」
「良かった…後ろにいたの?」
「まったく、ほら」
「え?」
ぐいっと手を引っ張られたと思ったら、次の瞬間には手を繋がれていた。
思わず声をあげそうになるのを必死でこらえる。
ひいいっ、手繋がれてるよおおおおおおっ!!!!!
なにこの乙女ゲームとか少女漫画でありそうなベタな展開!!!
ううう、恥ずかしい……
………でも、すごく嬉しいのも事実で。
ドキドキ、胸が早打つ。
「なにか食べる?」
「え、えーっと………かき氷?」
「なんで疑問系?」
「なんとなく………目の前にあったし」
「……まあいいけど」
このまま時間が止まってしまえばいいのに。
幸せな気分のまま。
もう夏休みも終わる。
そしたら私はまた学校に行かなくてはならないし……精市はどうするんだろう?
夏祭り当日
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