とある日の昼下がり。
今日は朝から土砂降りの雨が降っていた。

せっかく今日は部活お休みだっていうのに…
この雨じゃどこにも出掛けられない。
蒸し暑いし、じめじめしてるし、最悪な気分だ。



「……はあ」

「さっきから溜め息ばっかり」

「だって何もすることないんだもん。洗濯物も干せないし、掃除とかは午前中に済ませちゃったし」

「筋トレでもしたら?二の腕たるんでるから」

「う、うるさいー!!」

「ふふっ」



悪びれもせず笑う精市に、少しだけ殺意が芽生えた。
むかつく、殴ってやりたい。
女の子に向かって二の腕たるんでるなんて………あいつは女の敵よ!

こっそり、精市に背を向けながら自分の二の腕を触ってみる。

…………そんなにたるんでるかなあ……
筋トレ……しなくちゃいけないかなあ……



「なんだ、俺の言葉気にしてるの?」



ふいに彼が上から覗き込んでくる。
私はびっくりして立ち上がった。



「ひいっ、べ、別に気にしてないよ!!」

「ふうん…?」

「な、なにその顔は」

「別になんでもない」

「なにそれ………」



うまくはぐらかされた気がするのは気のせいだろうか。

……まあいいか、と考え直して歩き出す。
自分のラケットバッグを手に持って、さっきまでいたソファーに座り直した。
バッグを開けると、そこには2本のラケット。
赤白のやつと、うすいグレーのやつだ。



「手入れ?」

「うん、そう。グリップが擦れてきちゃったから貼り替えようと思って」

「へえ、じゃあ片方やらせて。俺結構得意だから」

「ほんと?じゃあお願い」



そう言いながら、赤白のラケットとグリップテープを渡す。



「それね、お母さんからの誕生日プレゼントなの」

「………へえ」

「私の一番大切なものだから、大事に扱ってよね」

「了解」



慣れた手付きで元々巻かれていたテープを剥がしていく。
どうやら得意だっていうのは嘘じゃないらしい。

続いて、私もテープを剥がしていった。



「そうだ」

「なに?」

「明日晴れたら、俺とテニスしに行こう」

「え………?」

「嫌だっていうの?」

「い、嫌じゃないけど」

「じゃあ決まり!」



…………まじで???




グリップ貼り替え





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