そして、夜9時を過ぎた頃。
ソラは部活をしてきて疲れたのか、いつもより早く自室に籠もってしまった。

…もう寝た、かな。

そんなことを思いつつ、風呂から出たばかりの俺は1人でいることに飽きて、部屋へと向かう。
そしてやっぱり、部屋に入った途端に聞こえてくる泣き声。



「…………っ……」



耳を澄ましても、やはり壁を隔てているからなのか微かにしか聞こえてこない。
でも、ソラは、確かに泣いている。

…………また思い出したのだろうか、お母さんのことを…



「…はあ、」



俺は小さく息をつくと静かに部屋を出た。
向かうは隣の部屋、ソラの元へ。



ねえ、感謝してよ?
俺が直々に慰めてあげるんだから…



ガチャリ、彼女の部屋を開くと、ベッドの上でうずくまっている姿が見えた。
いきなりドアが開いたことに驚いたのか、一瞬びくっとして、それから目を見開いてこっちを見ている。



「な、なな、なん、で、」

「なんでじゃないだろ、むしろこっちが聞きたいくらいだ。なんで毎晩泣いてるのか」

「な、泣いてなんか、ない!」

「強がっても無駄、やっぱり隣の部屋だから聞こえて来ちゃうんだよね」



そう言ってベッドへ近付く。
ぐいっ、腕を引っ張ったら案外すんなりと立ち上がった。
そして、ソラを横抱き(いわゆるお姫様だっこ?)にして部屋を後にする。
さすがにこれには抵抗を見せた。



「な、なんなのよ、今すぐ離して!」

「この状態で離したら床にぶつかるだけだけど」

「っ、やっぱり無し!今の無し!ちゃんと降ろして!!」

「やだ」

「な……っ」



そんなこんなで会話しているうちに俺の部屋へ到着、ダブルベッドの上に彼女を降ろす。(というか、落とす)

ぼすん、スプリングで何回か揺れた後、俺を真っ赤な顔で睨んだ。



「な、なにすんのよ!」

「え?」

「え?じゃなくて、わ、わた、私、………ひぃっ」

「なに怯えてんの、ほら詰めてよ。寝れないだろ」

「ええっ!ちょ、まさか一緒に寝る気!?」

「ふふ、そのまさかだよ」



にっこり、最上級の笑顔で応答する。
一緒に布団の中へ潜り込めば、彼女は少し距離を置いた。

その頬にはやはり涙が光っていて、俺は親指で拭ってやった。


「ほら、やっぱり泣いてたんじゃないか」

「っ、」

「……やっぱり、お母さんの事?」

「う、っ……く…」

「ふふ、」



ぽんぽん、と頭を叩いてやれば、何かが吹っ切れたかのように泣き始めるソラ。
相当溜まってたんだろうな、なんて思いつつ、彼女の体を抱きしめる。



「ふうん…今度は抵抗しないんだ」

「…ひっ…、う…」

「まあ安心して。何もしないよ」

「う、…ん」



ねえ、ソラ。
今日だけは、めいいっぱい優しくしてあげる。

気の利いた言葉は言えないかもしれないけど。
でも、俺なりに優しい言葉だってかけてあげるし、特別に俺の胸だって貸してあげるよ。

だから、ほら。

今日は涙が枯れるまで泣くといい。


俺が側に、いてあげるから。




キミの弱いところ





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