あれから俺たちは家に帰った。
そして今、ソラは二階にある部屋に閉じこもっている。
もう軽く30分くらいはたってるかな……どうやら、部屋の片付けをしているらしい。



「精市ー、もう来ていいよー!」



やっと終わったか、と思いつつずっと待たされていた俺はリビングを出る。
階段を上がっていけば、「向かって右の部屋だよ」なんていう彼女の声がした。



「ソラ、」

「いらっしゃーい」



ガチャ、とドアを開けば、中にはベッドに座っているソラの姿が。
……やけに大きいベッドだな…
もしかして2人用?(枕もやけに大きいし)



「今日からここが精市の部屋ね」

「ふーん……」

「あ、タンスの中片づけておいたから、今日買った服しまっておいて」

「わかった」



俺がそう言うと、彼女は寝転んだ。
天井を見上げて、しばらくぼーっと物思いにふける。
何を考えてるんだか知らないけれど、その表情はとても悲しみに満ちたものだった。
どうしたんだろう、見るからに悩みがなさそうなお気楽な思考回路してそうなのに。
こんな顔を見るのは初めてだ。
…………というか、今日が初対面なのだから当たり前と言えば当たり前なのだけど。



「どうかした?」

「ここ、ね」

「?」

「お母さんとお父さんの部屋だったの。お父さんが亡くなってからはお母さんが1人で使ってたんだけどね」

「……………」



そうか、だからこのベッドは大きいのか。(やっぱり2人用だったんだ)



「夕飯の用意、してくる。精市はさっき言ったことやっておいてね」

「俺に命令するなんていい度胸だな」

「……なによそれ」

「ふふふ、冗談だよ」

「あ、あんたが言うと全く冗談に聞こえないから!」

「え?一体どういう意味かなぁそれは」

「……いや、なんでも…ないで、す」

「ど う い う 意 味 ?」

「ひいい……!」



繰り返し聞けば、彼女は真っ青になった。
それを面白い反応だと思いつつも、にこやかな表情は変えない。
笑顔が、時には凶器になることを俺は知っているからだ。
特に、この目の前にいる奴には効果てきめんらしい。

……そういえば真田や赤也にも同じような効果はあったな。



「わ、私、もう行くから……」

「へぇ、逃げるんだ」

「ちが…っ!」

「ふふ……」

「うっ………じゃ、じゃあね!!」



軽く殺意を込めて微笑んだら、ソラはびくびくと怯えながら部屋を出ていった。
きっと俺が荷物を片づけてリビングへ戻るころには、さっきの怯えた態度なんて忘れて、元通りになっているだろうけど。


……そしてこの日の夜中、微かに聞こえてきたあのすすり泣くような声は……

決して気のせいじゃないと思う――――。




部屋





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