「わあっ……!」



目の前に広がる砂浜。
そして、島の中心部にそびえ立つ大きなバトルハウス。
私は初めて来たバトルリゾートに、わくわくとした高揚感を感じていた。
やっぱり選ばれし者が集う場所なだけあって、雰囲気が違う気がする。
本来ならば私なんかが気軽に来れるような場所ではないはずだから、今日連れてきてくれたダイゴさんに感謝しなくてはいけない。



「はは、連れてきて正解だったみたいだね」

「すごいところですね……みんな強そう!」

「実際、強者ぞろいだよ」

「なんだかどきどきしちゃいます!」

「さあ、バトルハウスへ行こうか。君にとって充実した時間になるといいんだけどね」



そうして私達はゆっくりと歩き出す。
しばらくして足を踏み入れたバトルハウスは、外装はもちろんのこと、内装も豪華で、自分がここにいることが場違いのように思えた。
思わずダイゴさんの後ろに隠れて、おそるおそる周囲を見渡す。



「どうしたんだい?」

「いや、あの、なんだか気後れしてしまって……」

「気にすることないよ」

「そ、そうでしょうか……」



まあ……確かに、よく見てみれば子供もいるようだけれど。



「ほら、見てごらん。 ちょうどひと試合始まるみたいだよ」



促されて、ちらりと視線を向けてみれば、中央のステージで四人が向かい合っていた。
人数的にマルチバトルだろうか。

ガブリアス、マルノームVSキレイハナ、バクーダ。
どの子もよく育てられていて堂々としている。
コンビネーションがものをいうマルチバトルで、トレーナーがどんな指示を出すのか興味があって、私はそのバトルに釘付けになっていた。
攻撃して、かわして、また攻撃して。
その状況に合った的確な判断をしなくてはならない。
私だって今までに多くの場数を踏んできたけれど、まだまだ勉強しなくてはならないことがたくさんあった。

やがて、バトル終了の合図が鳴り響く。



「楽しそうだね」

「えっ!?」

「顔が笑ってる」

「あっ、ごめんなさい一人で盛り上がって……」

「いや、これもいい経験だと思うよ。ゆっくり楽しむといい」

「ありがとうございます!」



ダイゴさんはいつだって優しい。
もちろん厳しい所もあるけれど、本当にすごい人だなあ、と思う。
人格者でもあるし、地位や名声もあって、ルックスだって申し分無いし、なによりチャンピオンなだけあってポケモンバトルがすっっごく強い。
こんなすべてを兼ね備えた人に憧れないわけがない。
……そう、例えるなら高嶺の花で、私なんかがいくら手を伸ばしても届かない存在なのだ。



「そうだ、せっかくだし僕達も参加してみないかい?」

「えっ?……ええっ?!!」



見学だけと思っていたものだから、突然のお誘いに頭がついていかなくて、変な声を出してしまった。
言葉の真意が理解できずにダイゴさんを凝視していると、彼はにっこりと笑い私の返事も聞かずに受付へ向かってしまったので、慌てて追いかけた。
さすがダイゴさんというべきか、手続きはもうお手の物みたいで、私が呆然としている間に話はどんどん進んでいく。



「はい――――――マルチバトルで」

「えええっ?!」



マルチバトル?!?!
わたしがあのダイゴさんと?!
そんなの恐れ多いよ!!!



「もしかして僕がパートナーだと不満かな?」

「い、いや、そんなことはなくて、むしろ逆というか、すっごく嬉しいですけど……!」

「じゃあ決まりだね」

「えっ、いや、ちょっとまってダイゴさーん!」



楽しそうにすたすたとステージへ向かって歩いていくダイゴさんをまたもや慌てて追いかけて、私は隣に立った。

……というか、私、大丈夫だろうか。
とりあえずダイゴさんには迷惑をかけないようにしなくちゃだけど……



「本当に私で……いいんですか?」

「君以外誰がいるのさ」

「いや、シングルでもいいじゃないですか……それにマルチがいいんだとしても、ダイゴさんならいくらでもパートナーになりたいって人は見つかると思いますし」

「ごめん、言い方が悪かったね。僕がさっき誘ったのは、他でもない君と一緒にバトルしてみたいと思ったからだよ」

「えっ……?!」

「……ああ、そろそろ始まるみたいだ」



いつのまにか相手が登場していたらしく、ランターンとユキメノコを繰り出していた。
対するこちらは、ダイゴさんのプテラと私のリーフィア。
相性はこちらの方が全体的に有利だけれど、最後まで油断はできないのがポケモンバトルだ。



「ふふ、僕達のコンビネーションの見せ所だね…………いくよ、なまえちゃん!」

「……はいっ!」



バトル開始の合図が鳴って、先攻として私のリーフィアがマジカルリーフを繰り出す。
それはランターンに直撃して、大幅に相手のHPを削った……と思ったのだけれど、どうやらリンドの実を持っていたらしく、効果を半減されてしまった。



「プテラ、ほのおのキバ!」



ユキメノコのシャドーボールをかわしたプテラに、ダイゴさんがすかさず指示を送る。
隣で堂々としている彼を見て、とてもかっこいいなあ、と思った。
立ち方からポーズまで、全身が洗練されている気がする。

……熱烈な私の視線に気付いたのか、ちらりとダイゴさんがこちらに目線を向けた。
にこりと微笑まれて、私は体温が少しずつ上昇していくのがわかった。



「リ、リーフィア、くさぶえ!」



ダイゴさんに見惚れてる場合じゃなくて、私もちゃんと集中しなくちゃ…!
一時とはいえ、パートナーとして恥ずかしくないように。
胸を張って、隣に立っていられるように。





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「ダイゴさん、ごめんなさい。私のせいで……」

「なに言ってるんだ、君のせいじゃないよ。タイプの相性もあるし、その時の運もあるしね。それに僕としては、初めてタッグを組んだにしてはいい線いったと思うんだけど」



あれから私達はバトルハウスを出て、砂浜でゆったりとした時間を過ごしていた。
時々吹く潮風が心地いい。

私としてもマルチバトルは最終的に7勝できたので、まあまあかなあ、とは思うけれど。
それでも8試合目の敗因は明らかに私にあったので、すこし落ち込んでしまう。



「そんなに気にすることないよ。君だってバッジは8つ持っているんだ、立派なトレーナーじゃないか」

「……まだまだダイゴさんには勝てないですけどね」

「はは、それはまあ、僕だってチャンピオンとしての意地があるからそう簡単に倒されるわけにはいかないよ」

「ダイゴさんって、25歳でしたっけ?」

「ああ、うん、そうだけど」

「……すごいなあ」



私とすごく年が離れているというわけでもないのに、この年でチャンピオンだなんて。
もちろん今までに努力も相当してきたのだろうけど、元々そういう才能が飛び抜けているんだろうなあ……
そんな有名人とこうして親しくお話している、というだけでも私はとても恵まれているのだと思うけど。
だから、もっともっと近付きたいなんて、そんなことを思ってしまうのは贅沢なのだ。



「そういえば、今日はどうしてここに連れてきてくれたんですか?」



ふと思った疑問を口にする。
ダイゴさんはきょとんとした後、口元に手を添えて少し考える素振りを見せた。



「……どう言ったら、君に伝わるだろうね」

「私、に?」

「うん。……簡単に言うなら、特別、ってことかな」

「え?……え、ええっ!?!?」



どき、どき、心拍数が上がっていく。
ぱくぱくと口を動かすことしかできなくて、どう返答したらいいのかも考えられない。
そんな私を見て、彼は楽しそうにくすくすと笑っていた。



「顔、真っ赤だね」

「えっ、だ、だって、それは……どういう……?!」

「どうって、言葉の通りだよ。まあ聞き手によっていろいろな受け取り方をするだろうけど……」

「いろいろって……」

「ねえ、君はどう感じた?」



そんなことを聞かれても、答えられるわけがない。
もし間違った解釈をしていたら自意識過剰すぎるし、なにより恥ずかしすぎる。



「私に答えさせるなんて、ずるい、です」



恨めしそうな声でそう告げれば、彼はより一層笑みを深めた。
ひゅう、と突然の風が髪を掬う。



「……大人はね、ずるいものなんだよ」





潮風に隠した想い

(そんなもの、言い訳です)
(じゃあ、次に一緒に来た時は本当の意味を教えてあげようか)


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