俺は好きじゃない。
多分、好きじゃないはず。
「リョーマーっ」
あの後、その場を逃げ出して水道のもとへ来た俺を、追いかけてきた外村。
それを無視して顔を洗い出した。
「……はい、タオル」
「…………」
無言で受け取る。
今はなぜか、外村の顔が見たくなかった。
でも、頭を冷やしに水道に来たはずなのに、近くにいられては全然効果がない。
「どうしたの?」
「…なにが?」
「だってリョーマ…機嫌悪い」
「別に悪くない」
強がってみるけど、誰から見ても俺の機嫌が悪いのは明らかだった。
なんでこんなにイライラするのかなんて、自分でさえよくわからない。
ただ、不二先輩のあの一言で心が揺さぶられたってのは確実にわかるけどね。
『越前?この子のことが好きなのかい?』
………そんなこと言われたって、分かるわけないじゃないスか。
外村は今までただのクラスメートだったし、それ以上の感情なんて抱いてなかった。
なのに。
いきなりそう尋ねられても……
「あのね、リョーマ」
「………なに」
「私が何かしたなら謝るね、ごめんなさい…」
「別にアンタは何もしてない」
そう、俺が勝手にむしゃくしゃしてるだけ。
「……でもっ」
「もういいよ」
「………」
いつもの元気な顔とは違って、しゅんとした表情を浮かべる外村。
それを見て、ズキッと心が痛んだ。
「………らしくない」
「え?」
「笑ってなよ。そんな顔、アンタには似合わない」
俺は外村の笑った顔が好きだから、そんな悲しそうな顔は見たくないと思った。
俺がそうさせてるのかもしれない、だけど、ずっと彼女には笑っていてほしいんだ。
「……うん!」
やっと笑ってくれた。
いつものように。
「俺、好きだよ。外村の笑顔」
「えっ、ほんと…?」
「ん、」
「えへへっ、嬉しい!ありがとう!」
俺、この気持ちが何なのかなんとなく分かったような気がする。
だから笑顔だけじゃなく、アンタ自身も、ね…
もしかしたら、じゃなく。
これは絶対なる確信。
もう、誤魔化せない
(だって、気付いてしまったんだ)
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