………あれから、ひなは毎日のように部活見学にくるようになった。
フェンスの向こうから、ずっと赤也を見つめて。
そんなあいつの姿を見かけるたび、キリキリと胸が痛くなる。(そんなに赤也が好きなのかよ、)



「どうしたんだ?」



練習中、ジャッカルの声がかかる。
どうやら俺はぼーっとしていたらしい。



「糖分が切れたのか?ほら、ガムならあるぞ」

「…………いらねぇ」

「お、お前正気か!?」



急に心配になったのか、声を荒げるあいつ。
あーうぜえ。(つるつる頭から流れる汗が暑苦しい)
ほっといてくれよ、俺はいつでも正気だ。

………でも、今日はやけにボレーが冴えねぇなあ。
つか、失敗してばっかりだ。
成功したの何回あったっけ……
くそ、天才的な俺の妙技が………!!

一体どうしたんだ、俺。
そして、この胸の痛みはどうすればいいんだ。

どうすれば、いつも通りに戻れる?



「あ、八神せんぱーい!」

「赤也くん…!」

「また見に来てくれたんスね!」

「う、うん。今日も頑張ってね」

「おう!」



遠くからかすかに聞こえてくる、ひなと赤也の会話。
自然とそっちに視線がいった。

なんなんだよあいつらは。(俺に見せつけてんのか?)
あーもう、胸が痛くて死にそうなんだけど!

楽しそうに話す2人を見てるのに耐えきれなくなって、目をぎゅっと閉じてあいつらに背をむける。
再び目を開けば、視界に入ってきたのはジャッカルだった。



「わりぃジャッカル、調子悪いから休んでくる」

「ああ、幸村には俺から言っとく。無理すんなよ」

「サンキュー」



やっぱ持つべきものは下僕………じゃなくて、友だな!
そう思いつつ俺は部室へ向かった。

途中でドリンク作ってる森野にも会ったけど、「調子悪いって、あんたが?まっさかー!」とかふざけたことを言ってきたから睨んでやった。
マジムカつく。
空気読めよ、空気!

俺はさっさと部室に行くことにし、あいつを無視して歩きだした。


………って、俺なんでこんなにイライラしてんだよ。





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「あー疲れた」



………そして、部室にて。
別にたいして疲れてねえけど、疲れたと言いつつイスに腰かける。
タオルを頭から被って、手に持ったラケットを見つめた。
でもすぐに邪魔だと言うことに気づき、横に立てかけておいた。

さっきから、ぼーっとする頭の中に浮かんでくるのは、楽しそうな2人の顔。
なんだか俺だけのけ者にされたみたいで、気分が良くなかった。
あいつらが出会えたのは、俺がひなをコンビニに連れて行ったからなのに。
…………ああ、そうか。
あの夜、俺がひなを無理に連れ出さなければ2人は出会えてなかったんだ。
そうすれば、ひなが赤也に一目惚れすることも、きっとなかった。
俺がこんな思いすることも、なかったはず………………

って、今頃こんなこと後悔してどうすんだ俺。



「おーい、丸井」

「あ?」



突然ドアが開いたかと思えば、話しかけられる。
振り向いたら、それは森野だった。



「なによその態度。人がせっかく来てやったのに」

「はあ?」

「ほら、これ」

「わっ、」



いきなりなにかを投げられる。
うまくキャッチしてそれを見れば、それは俺のドリンクボトルだった。



「一番先に持ってきてやったんだからね。感謝しなさいよ」

「…………お、おう」

「調子悪いって、本当?」

「当たり前だろい。俺は嘘つかねぇし」

「ふーん…………ひなが、心配してたよ」

「え、?」



思いがけないその言葉に、勢いよく森野を見上げる。



「マジ、で?」

「ここで嘘ついてどーすんの。本当に決まってるでしょ」



ひなが、俺の心配を?
うわ、なんか信じられないんだけど……
……てか、ひなは本気で俺の心配をしてくれたっていうのに、俺はなにしてんだよ。

嫉妬で、胸が痛い………そんな自己中な理由で、休んでる。
挙げ句の果てに、ひなに心配させて。


今日の俺、天才的に最悪だ………







(好きだ、好きだ、好きだ)
(こんなにも嫉妬してしまうくらい)






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