「むむむ、無理だよぉぉぉ!」
「つべこべ言わず、ほら来るっ!」
「わああっ!」
無理矢理ゆうちゃんに引っ張られて、テニスコートへと連れてこられる。
今はもう放課後で、みんなは部活を始めようとしていた。
………そんななか、私はドキドキが止まらない。
「赤也ー!」
「えっ、ちょっ、ゆうちゃん!?」
いきなり彼を呼び出す友達に、さらにドキドキが高まる。
や、やばい、まさかこんな急な展開になるなんて思ってなかったからどうしよう…!
あああ、どうしようーっ!
「どうしたんスか?」
「!」
「こら、今度は隠れさせないわよ」
「お、鬼ぃぃぃ!」
ど、どうしようどうしよう。
赤也くんが来ちゃったよう!
ええと、何を話せば…
あああっ、緊張する………!
「あ、八神先輩」
「こ、こここ、こんにちは、赤也くん」
「よかった、名前覚えててくれたんスね!」
「う、うん……」
赤也くんも私のこと覚えててくれてたんだ…
すごくすごく、嬉しい。
こんな小さなことなのに、私にはとても嬉しいことに思えた。
なんだか不思議だなあ。
「なんでここに?」
「あ、えっと…見、学…に」
「へえ……じゃあゆっくりしてってくださいね」
「はい」
「…でも俺、また先輩と話したいなーって思ってたから会えて嬉しいっス」
笑いながらのその言葉に、どきん、と胸が高鳴る。
私と、話したいだなんて。
そう思ってくれていたなんて、全然知らなかった。
どうしよう、嬉しすぎるよ……
もしかしたら今、顔が赤くなってるかもしれない。
す、すごく恥ずかしい…………!
私、変じゃないかな?
ちゃんとしゃべれてるかな?
聞こえづらかったりとか、しないかな?
………そういうことが、いつもよりも気になる。
「あ、あの!」
「………へ?」
「私も…話したくて、だから、その…えっと……」
「じゃあ同じこと考えてたんスね、俺たち」
「そ、そうだね」
「へへっ、なんか嬉しー!」
元気に笑った彼を見て、自分の頬が更に熱くなっていくのを感じる。
ドキドキして、話すのも大変だった。(頭の中が真っ白になりそう…!)
「……って、なにニヤニヤしてんスか森野先輩」
「いやー、いい雰囲気だなあと思って」
「なに言ってるのゆうちゃんっ」
「あはははは!」
「ちょっ、笑ってごまかさないで下さいよ!」
「え、別にごまかしてないけど?」
「うわ、ぜってーウソだ」
今もなお笑っているゆうちゃんに、赤也くんは呆れかえる。
………横で見ていて、羨ましいなあ、と思った。
こんなにも仲が良いなんて。
「ひな」
「あ、ブンちゃん…」
「どうしたんだ?いつもより暗いぞ」
「………あの、ね」
「あ?」
もし、ゆうちゃんみたいに、明るかったら。
ゆうちゃんみたいに、マネージャーになってたら。
そうしたら、赤也くんは少しでも私のことを見てくれてた?
私たち、今よりももっと仲良く話せてた?
………そんなことなんて考えても、意味がないのにね…
でも、つい彼のことを想ってしまうのだ。
時には自分と誰かを比べたりして。
あきらかに自分のほうが劣っているから、そのたびに落ち込んでしまう。
「私も……笑顔が可愛い女の子になりたい、な」
「はあ?…………なに言ってんだよ、お前はそのままで十分可愛いだろい」
「…………ほんと?」
「おう!」
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(そんなこと言われても、やっぱり私は、)
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