「あーめんどくさい」
放課後、いつものようにテニス部を見学していたら、めんどくさいと言いながらとぼとぼと歩くゆうちゃんの姿を見つけた。
隣には赤也くんもいて、私は勇気を持って話しかける。
「ゆうちゃんどうしたの?」
「ひな……実は今から出かけてくるんだー」
「え?」
「お店に注文しておいたテニスボール取りにいくの」
「そうなんだ…」
「いつもならお店の人が届けてくれるんだけど、今日は忙しいみたいでね。明日届けてもらえばいいのに、真田が今日中にってうるさくて。だったら自分で行けっつーの」
「あ、あはは………」
あの真田くんにここまで言う女の子ってゆうちゃんくらいだよ……
やっぱり度胸あるなあ…
怖いもの知らずというか、勇敢というか。
私には持ってないものを彼女は持ってる。
うらやましいな、と思うよ。
私だって、こんな弱い自分いやだもん。
ゆうちゃんみたいに、強くかっこよくなりたい。
弱気で大人しい自分なんて、コンプレックスの塊なだけだよ。
「ほんとめんどくさい」
「それ俺の台詞っス」
突然赤也くんが口を挟んでくる。
どきっとした私は、静かに2人の会話を聞いていた。
「なに、私に刃向かおうっての?」
「だって、なんで俺まで着いていかなきゃならないんだよ!」
「女の子1人にボール運ばせる気?」
「だったら部員他にもいるじゃないスか!」
「レギュラーの中で一番年下なあんたが悪い。自分を恨め」
「くっそ……!」
「ふはははは!」
いいなあ、楽しそう。
…そんなことを考えながら2人を眺めていた、その時だった。
ゆうちゃんがとんでもないことを言い出したのは。
「あ、いいこと考えた。ひなが私の代わりに行ってきてよ、赤也と」
「え…っ!?」
ぱちん、ゆうちゃんがウインクしたのを見て、私は話を合わせて欲しいということなんだろうなと察した。
多分きっと………ううん、絶対に間違い、ない。
ゆうちゃんは私と赤也くんを2人きりにしようとしてる……
「まあ森野先輩と行くより八神先輩と行った方が面白そうだな」
「喧嘩売ってんのかコラ。……ひな、赤也もこう言ってるし、頼んでもいい?」
「えっ……う、うんっ」
「ほんと?ありがとー!」
にこり、笑いながら彼女は近付いてきて、私の耳元でこう囁いた。
「がんばるのよ、ひな」
ありがとうゆうちゃん…!
(私、精一杯がんばるね…っ)
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