「………ひな、これ使え」
「え…………?」
「俺がお前から貰ったクッキーだよ。まだ食べてないから、これを赤也に渡してこいよ」
いきなり、彼から告げられた言葉。
どうしてこんなことを言われるのかわからなかった。
ただ、ぼんやりと涙で霞む目でブンちゃんを見返す。
…………だって、ブンちゃんはクッキー大好きなのに。
なのに、どうしてそんなに私のことを思いやってくれるの?
「いい、の……?」
「おう!」
それは、どう見ても無理な笑顔だった。
頑張って笑っているのがすぐにわかる。
……やっぱり駄目だよ。
それは受け取れないよ、ブンちゃんにあげたものなんだから……
自分のわがままで人を困らせたくない。
私には次があるもん。
……だから、ブンちゃんには気を遣わせたくないの…
「それは、受け取れない、よ…」
「は?なんで」
「それは、ブンちゃんにあげたものだから」
「そんな気を遣うなって」
「気を遣ってるのはブンちゃんのほうでしょ?」
「………いいから!」
そう言って、無理矢理私の手に包みを握らせる。
慌ててブンちゃんの顔を見上げれば、やっぱり彼の笑顔はぎこちないものだった。
「ブン、ちゃん………」
「そんな顔するなって、ひな」
「で、でも…っ」
「俺は大丈夫だって言ってるだろい?」
どうして、そこまで私によくしてくれるんだろう。
それに、なんでこんなに優しくしてくれるの?
……やっぱり、なにか我慢してるんじゃないのかな…
だからあんな顔をしてたんでしょう…?
ブンちゃんは、いつも私になにも言ってくれない。
それは、私が頼りないから?
いつも心配ばかりかけてるから?
だから私にはなにも話してくれないの…?
1人で溜め込むくらいなら、いっそのこと相談してくれたらいいのに。
どうしてブンちゃんはこういう時だけ遠慮するんだろう。(食べ物関係は絶対に遠慮したりしないのに)
「ブンちゃん………ごめんなさい」
「なんでお前が謝るんだよ?」
「だって、私のせいで……」
「違う、ひなのせいじゃない。だからそんなに自分を責めんなって」
俯く私に、ぽんぽんと頭を叩くように撫でてくる彼。
なんでだろう、こうされるだけですごく安心できる。
…そういえば昔からそうだったなあ。
小さくて、今よりももっと泣き虫だったころ、私が泣くたびにブンちゃんはこうしてなだめてくれた。
優しくて頼れて、まるでお兄ちゃんみたいな存在で。
本当にお兄ちゃんだったらよかったのに……なんて思ったときもあった。
私、すごくすごくブンちゃんのことが大好きだったの。
これは今でも変わらないと思う。
ブンちゃんは、私にとってかけがえのない幼なじみだから……
でも、この好きは赤也くんへの好きと少し違う気がする。
なんていうか、うまく言い表せないんだけど……やっぱり、少し違う。
「ありがとう……」
「今度こそはちゃんと渡せよ?」
「…うん、頑張るね」
心が痛むけれど、私はブンちゃんの好意に甘えることにした。(あとでお礼にケーキでも焼いてあげようかな)
「よし、じゃあ放課後に改めて行っておいでよ」
「うんっ」
ゆうちゃんの言葉に明るく返事をしたはいいものの、やっぱり私はブンちゃんのことが気になって。
彼はまだ少し暗い表情をしていた。
「丸井、なに暗い顔してんのよ。ひなが不安がってるじゃない」
「……あ?」
「あ?じゃないでしょ、人の話ちゃんと聞け!」
「あー………わりぃひな」
「え、あ、うん……」
「……私に謝罪は?」
「なんで俺が森野に謝んなきゃなんねえんだよ」
「ム、ムカつく……!!」
「ふ、ふたりとも落ち着いて…!」
睨み合う2人に、私は慌てて仲介に入る。
なんでこんなに仲が悪いんだろう……
まあ、喧嘩するほど仲がいいって言うけれど。
でも私はお似合いだと思うのになあ………ゆうちゃんも、ブンちゃんも。
「だめだよ、喧嘩しちゃ」
「「う………」」
「なんでふたりともそんなに仲悪いの?」
「……丸井が悪いんだもん」
「はあ!?お前だろい!」
「だから、喧嘩しちゃだめだって言ってるでしょ…!」
少し大きめの声で言ってみると、2人は黙りこんだ。
なんだか、お互いにちょっとだけ似てるような気がする。
特に、いじっぱりな所とか…ね?
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(でもブンちゃんがそこまで言うなら、私は)
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