あーあ、ひな行っちまったか……

「赤也くんにあげるの」、なんてクッキーの包みを持ってはにかんじゃってさ。
なんなんだよ、あのめちゃくちゃ可愛い笑顔は!!
あれで、俺のことを想ってくれてたなら最高なのに。
なのに……あいつは、赤也を…

ああもう、考えるだけで泣きたくなってくる。
なあひな、俺のことを見てくれよ。



「あーもうっ、いつまでうじうじしてんのよこの馬鹿男!」



席に座って机に突っ伏している俺に、隣からものすごいでかさの声がふってくる。
…………そうだ、森野って俺の隣の席だったっけ。
マジ最悪だ。



「……うるせぇ!!」

「ああ!!?うるさいとはなによ!」

「うるせぇからうるせぇって言ったんだよアホ!」

「なっ、なんだと……!!?」



マジうざいわこいつ。
この俺が傷心中だってのに、話しかけてくんなよ!
つーか声でけぇよ、それでも女か!
…いや、こいつは女じゃねえ。
だって女の子らしさとか全然ねえし、言葉使いだってひなと比べたら乱暴だし、性格も可愛くねえし。
ほんとひなとは大違いだ。



「あんた見てるとムカつくのよ、いつもいつもひなばっかりで。過保護すぎ!」

「目を離すとなにするか分からねえんだから仕方ないだろい!つーかお前も同じなくせに!」

「私は親友として見守ってあげてるの!丸井は違うじゃん!」

「違わない!俺だって幼なじみとして…」

「違うでしょ」

「はあ?」

「好きなくせに、ひなのこと」

「っ、!?」



その言葉を聞いて、一瞬ドキッとした。
なんでこいつがそんなことを知ってるんだ。
俺がひなのことを好きだって知ってるのは、小学校からの仲のジャッカルくらいしか………
なのに、どうして。
つまり森野はそのことを知ってて今まで一緒に過ごしてきたってことか?

動揺している俺に、あいつはさらに追い討ちをかける。



「あの子が赤也のことを好きと言ったからってさ、そこまで落ち込むことないじゃん」

「お前に俺の気持ちが分かってたまるか」

「でもあんたが応援するって言ったんでしょ」

「………うっ…」



確かに言ったよ、応援するって。
でもそのほかになんて言えばよかったんだ?
あの時はこれ以外、言える言葉が………

好きなんだ、誰よりもひなが。
ずーっと前から。
でも、ひなは一番身近にいた俺じゃなくて、赤也を選んだ。
……すごく悔しかった。
あいつを泣かせるようなことは絶対にしたくないから、応援するって決めたけれど………それでも俺がひなのことを好きだということは変わらなくて。
きっぱり諦めようと思うのに、なぜか気持ちがついていかない。



「そんなに好きなら、好きだってアピールすればいいじゃない」

「……ぜってぇ無理」

「いくじなし!」

「なんとでも言え!」



嫌なんだ、この関係が壊れるの。
もし俺が告白したら、あいつは絶対に困るだろい?
そしたらきっと、幼なじみじゃいられなくなる。
普通に話をすることさえも出来なくなるかもしれない。
………そんなことになるんだったら、いっそのことこの気持ちは捨て去って、幼なじみとして生きていくほうがまだマシだ。

…………だから、俺は。
ひなの恋を応援することに決めたんだ。



「あーもう、本当にヘタレ」

「黙れ」

「八つ当たりしないでよ」

「してねえし」

「……はあ、」



なんだよこいつ、人の顔見ながら溜め息つきやがって…………と、イライラしていたその時だった。
教室のドアが弱々しく開いて、ひなが入ってくる。



「ひな、どうだった?」

「……………」



声をかけても返事はなく、彼女はうつむきつつ俺の斜め後ろ…というか森野の後ろの席に座る。
様子がおかしいことに気付いて、俺は顔を覗き込んだ。

………すると、そこには。
必死に涙をこらえようとしているひなの姿が。



「ど、どうしたんだよぃ!」

「うるさいよ丸井。ひな、なにかあったの?」

「………と…たの…」

「「え?」」

「…クッキー、落としたの…私、転んで……それで、ね、踏まれちゃ、って……」

「まさか、それでそのまま帰ってきたのか?」

「…………」



こくり、と弱々しく頷く彼女。
途切れ途切れの言葉でも、起こったことは容易に想像することが出来た。
ああ、やっぱり1人で行かせるべきじゃなかった…………と、今更ながらに後悔する。
じわじわと滲んできた涙が、ひなの頬を滑り落ちた。



「……ぅう…っ……」

「………よしよし、ほらいい子だから泣かないの」

「ゆう、ちゃ…っ」

「今じゃなくても次があるでしょ?赤也に嫌われたわけでもないんだし、そんなに落ち込まないで」

「ひ…っく……う、ん」



ぽんぽんと森野に頭を撫でるように叩かれつつ、ひなはハンカチで目元を拭った。

……そんなに、赤也が好きなのか?
クッキー渡せなかったくらいで、あんなに落ち込んで。
正直、赤也がすっげえ羨ましい。
ひなからあんなに想われて。
俺も、あんな風に想われたかったな……

そして、俺はある決心をする。



「………ひな、これ使え」

「え…………?」

「俺がお前から貰ったクッキーだよ。まだ食べてないから、これを赤也に渡してこいよ」



いいんだ、たとえ好きな奴から貰ったクッキーだとしても。
たとえ、すごくすごく嬉しくて、他の奴からもらったクッキーよりも食べるのが楽しみだったとしても。
ひなの泣き顔を見るよりはマシだろい…?
これ以上、好きな奴を泣かせたくないんだ。



「いい、の……?」

「おう!」



にっこりと、今の自分に出来る精一杯の笑顔をおくる。

あーあ、馬鹿だ俺。
なんでこんなに好きになっちゃったんだよ。
後悔しても、今更遅いのに。







(ひなが幸せになれるなら、俺はなんでもする)






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