「えっと……どうし、よ……」
そして二年生のフロアにて。
赤也くんのいるD組の目の前で、うろうろとしている私。
どどど、どうしよう。
………入るか…入らないか。
入らないと、赤也くんに会えないけど……でも、さすがに二年生の教室に入るのは気が引けるしなあ……
あああっ、どうしようー!
ドキドキとうるさく高鳴る胸。
手に持っている包みを、彼に渡さなくてはいけないのに。
早く…、休み時間が終わる前に、早く…!
ああ、こんなことならゆうちゃんとブンちゃんに着いてきてもらえばよかったなあ。
…って、だめだよ私…!
そんなことじゃ、だめだ。
このくらい自分でなんとかしなくちゃ。
2人に頼らなくても、大丈夫。
きっと大丈夫……!
「よ、よし行こう!…………きゃあっ」
「わ、っ!」
それは、ガラッとD組のドアを開けて一歩を踏み出したときのことだった。
ドン!と勢いよく、それも教室から飛び出してきた相手の胸板に、顔…というか体ごと派手にぶつかる。
私は衝撃によろめいて、思わず床にしりもちをついた。
うぁ、鼻がいたい……!
……人にぶつかるなんて、なんでこんなにもついてないんだろう。
そう思いながら私はじんじんと痛む鼻を押さえた。(本当にいたい…!)
すると、頭上から聞こえてきた声は。
「え、あれ?八神先輩?」
「っ!あ、あ、あ、赤也くん…!」
「ぶつかってすんませんでした!…へーきっスか?」
「は、はい…」
差し出された手に素直に掴まって、立ち上がらせてもらう。
ぶつかった相手が赤也くんだったのだと分かって、一気に体温が上昇した。
…まさか、いま私が会いに行こうとしていた張本人に、いきなり対面することになるなんて思ってもみなかったのだ。
え、えっと、とりあえずなにから話せばいいんだろう……?
あ、そうだ、クッキー渡さないと!
そう思って手元を見るけれど、さっきまであったはずの包みはもうなくて。
私は真っ青になった。
ど、どこにいったの……!?
「うわっ」
後ろのほうから声がして、そして、同じくぐしゃっという音もしたから私は嫌な予感をいだいて振り向く。
すると……そこには見知らぬ男の子と、その人の足の下には、微かに見える薄いピンクの包みが。
その男の子は「誰がこんなところに置いたんだよ」と文句を言いつつも去っていった。
あわてて、くっきりと足跡のついたそれを拾い上げる。
「…う………」
もう、なにもかもが遅かった。
中のクッキーはぐちゃぐちゃに崩れているし、包みは汚くなっているし。
どうして、こんなことになっちゃったの……?
ただ赤也くんにクッキーを渡したかっただけなのに。
たったそれだけなのに、どうして……?
一生懸命、泣きそうな自分を抑える。
泣いちゃだめ、後ろには彼がいるんだもん。
弱い姿なんて見せちゃだめ……!
「どうかしたんスか?」
「ううん、なんでも、ないの」
くるりと振り返って、今できる精一杯の笑顔を作る。
ぼろぼろの包みは、見えないように後ろへ隠した。
………もう、こんなもの渡せない……
「そういえば八神先輩がうちのクラスに来るなんて珍しいっスね」
「え、えっと、………D組の担任の先生に用があって…」
「へぇー。あ、でも先生ならいませんよ」
「そうなの…?じゃ、じゃあ、違うところに行って探してみるね」
そう言って私は赤也くんの元を小走りで離れる。
だって、これ以上彼のところにいたら、こらえきれそうにないから。
……結局、渡せなかったなあ…
転んだのも、落としたのも、自分が悪い。
………次があるもん。
そうだよ、次作ったときに渡せばいいんだ。
「ぅ、……」
わかってる、わかってるの。
自分のせいだって。
今じゃなくても次があるから。
だから、気にすることないって………
……………なのに、どうして?
こんなに泣きそうになるのは。
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(うまく、ごまかせたよね…?)
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