教室中に、甘い匂いが立ち込める。
私はその甘い匂いにくらくらしそうだった。



「ふう……」



深呼吸をして、気を確かにもつ。
私は甘いものは好きと言えばそれなりに好きなのだけど、なんていうか、こう………焼き菓子の甘ったるすぎる匂いは苦手というか………
どちらかというと、ゼリーとかのほうが好きかもしれない。
もちろんケーキは好きだよ、だけど、マドレーヌみたいなバターたっぷりの焼き菓子類はあんまり好きじゃないの。



「大丈夫?ひな」

「あ、うん、なんとか大丈夫…」



ふらふらとする私を支えてくれるゆうちゃん。
私を廊下へと連れ出してくれた。
こういう細かい気遣いが、すごく嬉しい。



「すごい匂いだよね、あれ」

「うん………」



実は、さっきの授業の調理実習で私たちはクッキーをつくったのだ。
そして今まさに、教室のなかでは女の子たちが自分の作ったクッキーを友達同士で交換したりとか、好きな男の子にあげたりしている最中。

B組では雅治くんとブンちゃんに人気が集まっていて、二人はいろんな子たちからもらっていた。

私もブンちゃんにあげるつもりだったんだけどなあ……
あの人混みには入っていけないや…



「まだ気持ち悪い?」

「大丈夫だよ、もう平気」

「……ならいいけど、」



心配性だなあゆうちゃんは。
でも、なんだか嬉しい。
なんて、そんなことを考えていたら、自然と笑みがこぼれた。

そしてブンちゃんが教室から出てくる。
手にはたくさんの包みがあって、それだけ彼が人気なんだということがわかった。
甘いもの好きなブンちゃんはにこにこしててすごく嬉しそうだ。



「ひなー!」

「クッキー、いっぱいだね」

「おう!」

「あの、私もブンちゃんに作ったんだけど……そんなにあったら、もういらない…?」

「いる!ひなが作ったやつだったらいる!!」

「え、あ、じゃあ……はい、これ」

「サンキュ!」



手に持っていた小さな包みを渡すと、更ににっこりと嬉しそうに笑う彼。(やっぱりクッキー大好きなんだなあ)
つられてこっちまで笑顔になっちゃう。



「丸井、私のも食べる?」

「もらってやってもいいけど」

「うわ、めちゃくちゃ態度違うし!」

「ほらよこせよ、どーせあげる相手なんかいねぇんだろい」

「いちいちムカつくな…」



そう言いつつもひなちゃんはブンちゃんに包みを渡す。
まったく、素直じゃないなあブンちゃんは……

そう思っていたら、彼は私の手にあるもう一つの包みに気付いた。



「それ、誰に?」

「あ……えっと、赤也くんに…だよ」

「………ふーん、赤也のも作ったんだ」

「?うん」

「そっか、」

「……どうかした…?」

「いや、別に何でもないぜぃ!」



一瞬、私にはブンちゃんの表情が曇ったように見えた。
どうしてあんな悲しそうな顔をするの……?
私、もしかしてなにか悪いこと言った?
なんで、どうして?

どうして、あんな………



「ブンちゃん、?」

「ん?」

「気分悪くなったの…?」

「……え、いや、別に」

「じゃあ、なんでさっき…」

「ひな!」

「え、」



話をさえぎるように急に大きな声を出したゆうちゃんに、私はびっくりして目を見開く。



「ほら、赤也にそれ渡しに行くんでしょ?早く行っておいで」

「あ、うん」



そうだ、赤也くんのところにも行かなくちゃだった…!



「ありがとう、じゃあ私行ってくるね」

「私たち教室に戻ってるから」

「うん!」



そういって私は走り出す。
赤也くんのところに行かなくちゃ、あと、これ食べてくださいって言わなくちゃ…!

……でも、なんでさっきブンちゃんはあんな顔したんだろう…?
いまだにわからない、この疑問。

なんで……………?







(今でも頭の中に残ってる…)






:)戻る
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -