『ミサキちゃんとダイゴに、結婚してもらおうと思う』



私の頭の中で延々と繰り返されている、この台詞。
あはは、おじさんはいきなり何を言い出すの………
結婚?私とダイゴが?
そもそも結婚ってなに?
あれだよね、つまり私たちが夫婦になるってことで、一緒に生活したりとか子宝に恵まれたら子育てしたりとか………って子供?!?!!!



「い、意味が分からないんですが!」

「いや〜〜急な話ですまないねえ」

「どうしてこんな話に?!」

「うむ、実は息子には数々の縁談が来ていたんだが、その誰とも結婚するつもりはないと言い張るものだから…」

「それなら私じゃなくても…!」

「息子を安心して任せられるのはミサキちゃんしかいないんだよ。これは君のご両親にも了承を得ている」

「なっ……」



おじさんの言葉に絶句する。
まさかお母さんとお父さんがOKすると思わなかった。
だってあの日から私の前ではダイゴの話は禁句みたいなものだったし、嫌な事を思い出さないようにってずっと気を遣ってくれていたじゃない。
ダイゴの両親とは昔から仲が良いけれど、まさか娘をこんなに簡単に嫁に出すなんて…!!
たしかに、今お母さんのお腹には男の子がいるから跡継ぎには困らないだろうけどね?!



「ダイゴくんが相手なら私達も安心よね、あなた」

「そうだなあ」



にこにこ、ふわふわした笑顔でお母さんはお父さんに同意を求めた。
どうしてそんなことを言うの?
私、まだ結婚したくない。
ましてやダイゴとなんて。
私たち幼なじみなんだよ?

今更そんなの気まずいし、なにより、私があいつの事を許せない。



「……っ」

「ミサキ?」



次第に、視界がぼやけていく。
涙がこぼれそうになったけれど、そんなところは誰にも見せたくなくて俯いた。
隣でダイゴが私の名前を呼んだけれど、返事をする気にもなれない。
それに、どうして彼は反論すらしないのか。
そんな疑問も残る。

もういい、こんなところに居たくない。
そう思った私はリビングを飛び出した。



「ミサキっ!」



後ろでまたダイゴの声が聞こえたけれど、聞こえないふりをして、ただ走りつづけた。

はやく、はやく、自分の部屋へ。





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「すみませんね、ツワブキさん…いきなりの事で娘は不安定みたいで」

「いやいや、あの日のことを思えば、拒否反応を起こすのも無理ないだろう」



両親達の会話を黙って見守る。
本当はすぐにでも彼女を追いかけたかったけれど、僕が追いかけても嫌がられるだけだと思い直した。

実を言うと、この結婚の話はミサキよりも先に知っていた。
そもそもこの件については提案者……というか、こうなるように仕向けたのは僕なのだから。
まあ、きっと拒否されるだろうとは思っていたし、ミサキのことだから一人で部屋に閉じこもるだろうな、とも予想していた。
でもまさか全て予想通りになるなんて、少しショックかもしれない。

ちなみに、これからのことも双方の親と打ち合わせが済んでいて、明後日から同棲を始めるという話でまとめてある。
場所はトクサネシティにある僕の家。
以前旅をしていたとき、拠点にするために購入したものだったけれど、2人で暮らしても充分な広さだし、どうやら役に立ってくれそうだ。



「ダイゴくん、あの子を慰めてきてくれないかしら」

「僕が行っても逆効果では?」

「それでも、行かなくちゃ。ミサキのこと、好きなんでしょう?」

「………行ってきます」



……はは、おばさんには敵わないなあ。





(さてと、泣き虫なお姫様を迎えに行こうか)

結婚しましょう



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