「おかえりなさい2人共〜」



2人揃って家に帰ると、お母さんがキラキラと輝く笑顔で出迎えてくれた。
近くにいた使用人が私のバッグを受け取ってくれる。
お礼を言うと、その使用人はお辞儀をして静かに去っていった。



「ただいま、おばさん」

「ありがとねえダイゴくん、ミサキを連れ帰ってきてくれて。疲れたでしょう」

「いえいえ」

「ミサキったらポケナビも忘れて出て行っちゃったから、ほんと助かるわあ……………あら、頬どうしたの?」



別に私の話題になったわけじゃないのに、ぎくり、肩が揺れる。
なぜなら、ダイゴの頬が赤く腫れているのは私のせいだからだ。

…遡ること約20分前。
私はダイゴによって無理矢理車に乗せられていた。
そんな時、いきなり2度も唇を奪われて、私はキレて平手打ちをくらわせたのだ。
だってあんな雰囲気もなにもない時にしてくるなんて非常識よね、というか7年ぶりに会ったばかりだというのに、い、い、いきなり、あんなことするなんてありえないっ!

…………一体彼はどういうつもりなんだろうか。
もしかして、挨拶とか?
そ、そうだわ、そういう風習がある地域へ旅をしたことがあるのかもしれない。

挨拶だと考えたら、なんだか急に気持ちが軽くなった。
同時に少し残念な気もしてきたけど、…………いや、どうして残念なんだろうか。
おかしい、あの時は確かに嫌だと思ったはずなのに。



「赤くなってるわね。なにかあったんでしょう」

「……まあ、たいしたことではないですよ」

「あらあら。ミサキ、今度からはちゃんと手加減してあげなさいね」

「ええ?!」



私は思わず大きな声をあげた。
だ、だって、どうして私だと分かったの?
ダイゴは何も明言していないのに。



「あなた達を見ていれば分かるわよ」

「「………」」



何でもお見通し……か。
さすが私のお母さん。
ふわふわした容姿、物腰からは考えられないほど、勘は鋭い。



「それより、早くいらっしゃい」



そう言われて私たちは家の中を移動する。
どうしてだろう、ここは確かに自分の家なのに、近くにダイゴがいるせいか全く別の場所のような気がしてそわそわする。

なんていうか、やっぱり緊張しているのかもしれない。

ちらり、ダイゴの方を見れば、ちょうど向こうも私を見ていたらしく目が合ってしまった。
すぐさま逸らしたら彼はくすくすとおかしそうに笑い始めて、急に恥ずかしさが込み上げてくる。



「どうして笑うのよ!」

「いや、可愛いなあって」

「え……えっ?!」

「顔が真っ赤」

「うるさい!!!」



やっぱりあいつは余裕な態度。
それが無性に悔しくて、私は下唇を噛んだ。
どうして可愛いなんて言うの?
そんなこと、これっぽっちも思っていないくせに。



「さ、どうぞ」



お母さんにそう声掛けられてから、私はようやくリビングにいるのだと気付いた。
ダイゴのことばかり考えていて周りを見ていなかったとは認めたくないけれど、実際そうなのだから仕方がない。

そして、ゆっくりとぎこちなくソファーに腰掛ける。
…………何故かというと、彼が私の隣に座ってきたから。
もう、どうしてわざわざ隣に来るのかなあ!
正直近くにいたくないし、早く自分の部屋に帰りたい…………そう思うものの、周りの雰囲気がそれを許さなかった。

だって、この四角いローテーブルを囲っているのは、私の両親だけではなくダイゴの両親もいたから。



「おかえり2人共。ミサキちゃんはショッピング中だったそうだね、急に連れ戻してしまって悪いことをした」

「い、いえ、大丈夫です」

「ありがとう。で、さっそく本題なんだが…………明日は久しぶりに息子も帰ってきたことだし、祝いにパーティーを開こうと思っていてね、ぜひ参加してもらえると嬉しいよ」

「……はい、ぜひ」



本当はそんな気分じゃなかったけれど、ダイゴのお父さんからの頼みとあれば断るわけにはいかなかった。
おじさんは悪くないしね。
悪いのは、ダイゴだけだもの。



「…………それで、あと一つ話があってな……」



言いにくそうに苦笑いを浮かべるおじさん。
少しだけ周りの空気が張り詰めたような気がした。

なんだろう、この雰囲気は。
なにか嫌な予感がするのは気のせい??



「ミサキちゃんとダイゴに、結婚してもらおうと思う」





(結婚って、なに?え、どういうこと?)

意味が分からない!



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