トクサネに移り住んで、もう何日経っただろうか。

こちらに来てからは友達と連絡を取ることも少なく、ただダイゴと二人きりの日常が過ぎていく。
それはまるで離れていた時間を埋めるかのような…
そう、いくら幼馴染とはいえ、以前はこんなに一緒の時間を過ごすことは無かった。
今はあいつが仕事もしくはリーグ、石探しに行っている昼間を除けば、寝食共にほぼ同じ空間にいる。

一緒に住んでいるのだから、当たり前と言えばそれまでなのだけれど。



「はい、気をつけて」

「ありがとう」



差し出された手を取って、私はエアームドから飛び降りた。
ここはカナズミ、実家の庭だ。
ハルカちゃんと会う約束をして、せっかくだからショッピングでもと思って集合場所をカナズミシティにしたのはいいけれど。
トクサネに移り住んだ結果、私の移動手段が船か飛行機くらいに限られてしまったので、カナズミに行くには不便………ということで、あいつの出勤時間と合わせて一緒に来たのだった。
約束の時間までだいぶ余裕があるから、ひとまず家に立ち寄ってから向かおうと私は実家まで送ってもらった。



「ミサキ、そういえばあの子の連絡先まだ登録してなかったよね」

「あら、そういえば」

「今送るから…………あ、会社から電話だ。悪いけど頼んだよ」



そう言ってダイゴは少し離れた所にいくと会社用のポケナビで通話を始めた。
その間に、託されたプライベート用のポケナビからハルカちゃんの連絡先を探して自分のものへと登録する。

あれこれ詮索する気は全く無い………のに、不可抗力というか、目的の名前を探している途中で男性の名前に混じってちらほらと女性の名前を見かけてしまって、なんだか複雑な気持ちになった。
もちろん立場上交友関係が広いから、友人を除いたとしても連絡先は少なくない。
私だってそれなりの家柄に生まれた以上、付き合いがあるし、それはダイゴと一緒なのだけれど……

改めて見ると、こう……釈然としないというか。
あいつの交友関係なんて私には関係がないのに、どうしてこんな気持ちになるのかしら。

束縛したいとは思わないし……第一、そんなことをする理由がない。
私のことを好きだと言うダイゴの言葉を信じるのなら、私は堂々とすればいい。

………だって、私が婚約者なのだから。



「……………えっ」



小さくも間抜けな声が思わず漏れる。

ちょっと待って?
えっ??
今なんて思った?

これじゃあまるで…………



「おまたせ」

「ひいっ!!!」

「登録できた?」

「え、ええ!」



ああびっくりした…………!
考え事のせいで完全に油断していたみたい。

私は慌てて笑顔を取り繕ったけれど、ダイゴはというと不思議そうにこちらの様子を窺っていた。
しかしそれは束の間で、すぐに時間を確認する為に目を逸らす。
まだ始業前だというのに会社から連絡がくるなんて、なにか大変なことでもあったのかもしれない。



「じゃあ、僕は行くけれど。17時過ぎ頃には迎えに行くから、会社を出る時に連絡するよ」

「そんなに早く帰れるの?」

「もちろん、愛しい婚約者を待たせるわけにいかないからね。何があっても定時で帰るさ」

「………そう」



先程の考え事のせいか、どうにも言葉がひっかかってしまった。
愛しいだなんて、こういう女たらしなところがなんだかとても気に食わない。
ダイゴに言われたら、きっとホウエン中の女性が卒倒してしまうのでは?

悶々と考えを張り巡らせていると、ダイゴはじゃあまたと言ってエアームドと共に去っていった。
後ろ姿を完全に見送った後、私は屋敷に向かって庭を歩き進める。
ほっと一息ついたところで思い返してみたけれど、やはりいまいち納得がいかない。
あれではまるで婚約者であることを認めたみたいだし、あろうことか私がダイゴの事を好きみたいにも聞こえるような気がする。
いえ、そんなはずは1ミリもないのだけれど、でもあの感情は…………

まるで、独占欲のような。



「そんなことって……」



束縛したいわけではないとは思いつつも、これでは全く説得力がない。
はあ……と深い溜息を吐き出して、私は立ち止まり空を見上げた。
庭で立ちつくす姿は傍から見てとても滑稽だと思う。

きらい、すき、きらい、すき………………きらい、のはず。
そんな言葉が頭の中をぐるぐると回る。
自分の気持ちなのに自分でも意味がわからなくて、一体どうしたらいいのだろう。
いくら考えても結論は出ず、私は最近こんな事ばかりだと項垂れた。
いつまでもこの関係が続くわけがない。
というより、こんな偽りの関係を続けてはいけないと思っているからこそ、早く結論を出さなくてはいけないのだ。

初めはどうしてもあいつを受け入れられなくて頑なに意地を張ったけれど、いつから私はこんなに悩むようになったのだろうか。
それってやっぱり、絆されている証拠なのでは?

そんなことを考えていたら、ふとした拍子に違和感を感じた。
何故か両手にポケナビを握りしめている。
ひとつは私のもので、もうひとつは………ダイゴのプライベート用のポケナビを返しそびれてしまったようだ。
生憎、連絡を取ろうにも仕事用のポケナビの番号は登録していない。
…………夕方渡せば大丈夫かしら?
恐らくダイゴもそのうち気付いて、仕事用を使ってこちらに連絡してくると思うし……
または、先に会社に連絡をいれるとか。
でも、どうせまだハルカちゃんとの約束まで余裕があるから、それなら返しに行った方が良いような気もする。



「うーん………少しなら、邪魔にならないかしら」



ぽつりと呟いて、私は踵を返す。
実家に顔を出してからと思ったけれど、先日来たばかりだし、まあ予定変更ということで。

私はデボンへと向かったのだった。





(いくら考えても答えは出ない)

きらい、すき、きらい、すき



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