すたすた、ミサキを横抱きにしながら歩みを進める。 元々質が良いホテルではあるけれど、その中でもそれなりのグレードを指定したので、部屋は広く複数有り、隣接したベッドルームですら少し歩く必要があった。 幸い、彼女は僕に比べたらとても小さくて軽いし、問題なく運べる。 うとうとと今にも眠ってしまいそうなのに、一生懸命耐えている様子が愛らしい。 「よく頑張ったね。あと少しだよ」 「……ん」 自分から首に腕を回して擦り寄ってくるあたり、相当酔っているのだろう。 素面の彼女なら絶対にこんなことしない。 そう考えると役得だな、なんて感じてしまった。 そして、ベッドへ降ろそうとすると、まるで子供のように嫌だとしがみつき離れない。 「ミサキ?」 「やだ、おふろ…」 「あー…………酔っている時は危ないから、明日にしよう。もう寝た方がいい」 「ん〜〜〜〜〜!」 「こら。聞き分けのない子は襲ってしまうよ」 とさり、ゆっくりとベッドに押し倒しながら、覆いかぶさって耳元でそう囁いた。 ぴくりと可愛らしい反応が返ってきて、口元が緩む。 酔った相手をどうこうする趣味はないけれど、気を抜くと煽られてしまいそうになる。 ……少しなら、なんて。 絶対駄目に決まっているのに。 触れてしまったら何もかも終わりだ。 「汗が……」 「そう?気にしすぎじゃないかな」 「……ん、」 今日はそこまで暑くなかったし…と思いながら近くにあった首筋に顔を埋めれば、彼女はくすぐったそうに身をよじった。 時折あげる声が妙に色っぽくて、もっと聞いてみたいと思ってしまう自分がいる。 離れ難いけれど、これ以上は本当に駄目だ。 抑えが効かなくなる前に早く寝かしつけなくては。 「ほら、大丈夫」 「いや」 「うーん…………それならタオルを用意するから、今日は体を拭くだけで我慢出来る?」 「…………ダイゴは入るんでしょ」 「まあ、僕は酔っていないしね」 「ずるいっ」 「そんな顔をしてもこれ以上は譲歩しないよ」 するりとミサキの腕から抜け出して、僕はバスルームへ向かう。 そして、タオルをお湯で温めつつ、彼女は絶対に外で飲酒させてはならないと心に誓った。 抵抗するどころか自ら擦り寄ってくるなんて、今は僕だから良いものの、もしも他の男にも同じ事をしていたらと思うと背筋が凍る。 飲むなら家で、それも僕がいる時だけにしてもらわないと心配で堪らない。 何度抱きたいと思ったことか……この状況で耐えている僕を褒めてもらいたいくらいだ。 落ち着けと念じながら一息ついて、絞ったタオルを手にベッドルームへ戻る。 すると、そこで待っていたのは。 酔っ払いは何をしでかすか分からないと理解はしていたものの、その光景に思わず片手で顔を覆ってしまった。 「………………さむい……」 「それならどうして脱いだ……」 先程まで着ていたはずのワンピースは雑に脱ぎ捨てられていた。 無防備に晒された肌を前にしてごくりと喉が鳴る。 しかし下に太腿くらいまでの薄いスリップを着ていたらしく、辛うじてまだすべて見えていないのがせめてもの救いだろうか。 それでもちらちらとレースから覗く肌が心臓に悪い。 タオルを手渡しながら、こんな事をして本当は僕の事を好きなんじゃないかと口にすれば、ミサキは恥ずかしげもなくにこにこと即答する。 どうやら眠気は落ち着いたようだ。 「好き」 いやいやいや。 自分から聞いておいてあれだけれど、これは酔っ払いの戯言だ。 そんなことは重々承知しているのに、嬉しくて堪らないと思うのはもう重症かもしれない。 「それに、ミクリも好き。お母さんも、お父さんも好き。みんな好きよ」 「……そんな事だろうとは思ったけれど」 だが、僕が求めているのはそんな答えじゃない。 「僕だけにして」 「だけ…?」 「僕にとっての一番はいつだってミサキなんだ。ミサキにとっても、僕が一番大事と言ってもらえるようになりたい」 「ふふ、」 分かっているのかいないのか、くすくすと笑う。 …………いや、これは分かっていないな。 こんな時に真面目な話をしても仕方ないかと思い直しながら、僕はその場を離れた。 「僕がシャワー浴びている間に済ませておくように」 「はあい」 一旦、頭を冷やそう。 明日は朝からチャレンジャーがやってくる予定があるから、リーグに向かわなければならないし、トクサネへ帰って支度をする時間のことを考えると、ここでゆっくりしている場合ではない。 ……とはいえ、四天王突破にかかる時間を考慮すれば、もし仮に僕の元へ辿り着くとしても恐らく午後になるだろうか。 そう考えれば、まあ……急がなくても間に合うような気がする。 そして、バスルームから戻った僕はまた片手で顔を覆うことになる。 そこにはタオルを握り締めながら、ベッドの上ですやすやと呑気に寝息をたてるミサキがいた。 身につけているものは変わらず心許ないものの、豪快にはだけていて先程よりも尚更心臓に悪い。 「…………参ったな」 頼むから、ちゃんと隠して寝てくれ…… (ある種の拷問かもしれない) 天国か地獄か ← → back |