あれから、買い物をしたりカフェで休憩したりと楽しく過ごしていたら 、いつの間にやら辺りは真っ暗になってしまった。
ミサキとこうして、ちゃんとデートと公言して出歩いたのは初めてだ。
もっとこの時間が続けばいいのに、なんて願っても、楽しいと思えば思うほどあっという間に過ぎていく。
帰る場所が一緒のおかげで、デートが終わってもさよならではないのがせめてもの救いだろうか。

そして今はというと、せっかく都会にいるのだから、と夜景の見えるホテルのレストランでディナーをいただいている。
お互い静かに乾杯をして、一口ワインを含むと、グラスをテーブルへ置いた。
以前、彼女は普段飲まないと言っていたけれど、たまにはどうかと誘ってみたら、珍しく乗ってくれた。



「こうして一緒に飲むのは初めてだね」



僕は成人する前に旅立ってしまったから、アルコールを飲むミサキは初めて見る。
当たり前だけれど、お互い大人になったのだと思うと感慨深い。



「別に飲めないわけではないの。敢えて避けているだけで」

「ああ、飲むとろくなことにならないと言っていたね」

「でも、よく考えたら酔うほど飲みすぎなければいい話なのよね」



そう言って彼女は再度グラスを手に取り口元へ傾けた。
伏せられた瞼に、相変わらず長い睫毛だなと思いながら様子を見守る。

人は見かけによらないとは言うけれど、ミサキが極端な量を飲むとはどうしても思えなかった。
それでも、気にするほど酔ってしまったというのならば、本人が認めるかどうかは別として、恐らくアルコールに耐性が無いのだろう。

……と、そこまで考えたところで、今僕たちが飲んでいるワインの度数を思い出し苦笑した。
赤だから少なくとも15%前後……そもそもアルコール自体、大量に摂取するものではないとはいえ、もし本当に弱いなら用心しておいた方がいいかもしれない。



「僕としては君がどんな風になるのか興味があるし、いくら酔ってくれても構わないけれど…」

「残念ね。少しならどうってことないもの」

「介抱なら任せて」

「……信用ならない」

「手厳しいな。まあでも、これはそれなりにアルコール度数があるから、気を付けるのは良い心掛けだよ」



実際、彼女は数口飲んだだけだというのに、もう既に顔がほんのり赤く染まっている。
滅多に見られない姿に僕は自然と口元が緩んだ。



「そういえば、たまごの様子はどう?」

「時々中で揺れているみたい」

「そうか、ならもうすぐかな」

「本当?ふふ、どんな子が産まれてくるのか楽しみ」



今までの空白の時間を埋めるかのように、色々な話をして過ごす。
それは過去の話だったり、現在のことだったり。
どうやらミサキはとても機嫌が良いらしく、終始にこにこと笑っていた。
思えば、この時点で止めておくべきだったのかもしれない。
そういえばと時計を確認すると、食事を始めてからもうそれなりに時間が経っている。
まずいと思った時にはもう遅く、目の前の彼女はすっかり出来上がっていた。



「ミサキ?」



もしかして返事の代わりだろうか、ふわりと笑ってこちらを見る。
そもそも、よく考えてみれば、ミサキが何もなく僕に笑いかけるなんておかしいということに気付くべきだった。
話している途中で、やけにご機嫌だとはうすうす感じていたけれど、まさか1杯程度でこんな事になるとは思わず、甘く見ていたとしか言えない。

大丈夫かと声を掛けると、舌足らずな声で大丈夫だと返ってきた。
…………この様子だとまともに歩けるかどうかさえ怪しいな。

僕は会計を済ませるついでに、部屋の空きをフロントに確認してくるよう頼む。
出来るだけ早くミサキを休ませてやりたいし、ここがデボン傘下のホテルで本当に助かった。
顔が割れている分、話が早い。
すぐさま支配人自ら迎えに来て、部屋へ案内するという。



「今日はここに泊まるよ。立てる?」

「ん、だいじょ、ぶ……」



席をぎこちなく立ったかと思えば、ふらりと重心がぐらついた。
ああ駄目だ、支えていないと僕が心配で堪らない。



「……ほら、おいで」



足取りが覚束無いミサキの腰を抱き寄せて、案内に着いていく。
どうやら歩くのも限界だったようで、部屋へ入った途端に崩れ落ちた。
座り込む彼女に慌てて怪我がないか問うと、返事ではなく熱い視線を向けられ、一瞬固まってしまった。

恐らく他意は無いのだろうけれど、心臓に悪くて困る……

自分からアプローチするのとは勝手が違うというか、なんというか。
妙に照れくさくて目線を逸らしてしまいたくなる。
そう感じるあたり、僕も少なからず酔っているのかもしれない。
尚もこちらを見上げてくるミサキに合わせて腰を落とすと、彼女の発言を待った。



「ダイ、ゴ」

「どうかした?吐き気は?」

「ううん、へいき…」

「なら良かった。もう少し歩けそう?」

「……ねむい………」

「眠くなるタイプか………………よっと」



そうして、ひょいとミサキを抱き上げた僕はベッドルームへと向かった。





(彼女なら、世話を焼くのも楽しいと思える)

デートの後は、もう1泊



back

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -