「やあ、ハルカちゃん」 隣に肩を並べているダイゴはにこりと笑顔で声を掛けた。 元気よく近寄ってきた女の子はどうやらハルカというらしい。 眩しい笑顔も、小さくて愛らしい容姿も、晒した素肌だって、私とはまるで対照的だ。 年齢故にまだまだ幼さが残る顔立ちだけれど、きっとあと数年もすれば見違えて綺麗になるだろう。 …そんな、同性かつ年の離れた私でさえ、一目で好感を抱くような、元気でかわいい女の子。 ねえ、この子は誰? 一体どういう関係? そんな疑問ばかりが脳内を埋め尽くす。 18歳までの交友関係はほとんど共通だったのでお互い把握しているけれど、旅立った後の事は知らないから。 でもそんなの、私には関係がないのに。 なのにどうしてこんなに気になるのだろう? ……なんだか気持ちが悪い。 私、こんな感情知らない。 「奇遇だね、こんなところで出会うなんて」 「そうですね!」 「そういえばこの間―――――」 親しげに会話する2人を見て、少しだけ沈んだ気持ちになった。 言い表しがたい、もやのかかったようなこの気持ちはなんだろう? そんな考え事をしながら、しばらく成り行きを見守っていると、ふと彼女と目が合った。 こんにちは!と元気よく挨拶されて、私も応えるべく口を開こうとすると、すかさずダイゴが割り込んでくる。 「すまない、紹介が遅れたね。こちらはミサキ。僕の大切な人だから仲良くして欲しいな」 さらりと意味深に言ってのける彼につい反論してやりたい気持ちになったけれど、初対面の人の前なので大人しくしておくことにした。 愛想良く微笑んで、サイトウ家の娘としてきちんとご挨拶しなくては。 「はじめまして、ダイゴの幼馴染のサイトウミサキです。よろしくね」 「ハルカです。仲良くしてもらえたら私も嬉しいです!」 「ふふ、こちらこそ」 せめてもの意思表示として、『幼馴染の』を最大限強調して伝えたら、繋いでいた手に少し力が入った。 ちらりと横目で彼の顔を覗くと、笑顔が固まっている気がして、私はいい気味だわと笑みを深めた。 「あの、ところで……ミサキさんがダイゴさんの言っていた婚約者さん、ですよね?」 「え??」 「そうだよ。いずれ僕の奥さんになるから、今後もハルカちゃんと会うことがあるかもしれないね」 「キャー!いいないいな、二人のお話聞きたーい!」 興奮したのか、キラキラとした目でハルカちゃんは私とダイゴを見比べる。 私は慌ててあいつの手を下に引っ張り、耳打ちした。 「ちょっと!!どうして言いふらしてるの!?」 「問題ある?」 「あるに決まってるでしょ?!」 「でもあれだけ大々的に報道されていたし、僕が言わなくても遅かれ早かれ彼女も知ったと思うよ」 「そういう問題じゃないの!」 「早く観念して」 「〜〜〜〜〜っ!」 とても良い笑顔でにっこりと笑うから、すごく腹立たしいのに何も言えなくなってしまった。 どうしてなのか、調子が狂う。悔しい。 顔だけは良いのが余計に腹が立つ。 そうして黙っていたら、ダイゴはハルカちゃんに見せつけるように繋いでいる手を持ち上げた。 「ごめんね。僕達の話を聞かせてあげたいのは山々なんだけれど、今はこうしてデート中だから、また次の機会にしてくれるかな」 「あっ!ごめんなさい、つい……」 「気にしなくていいよ。今日一日ミサキと二人きりで過ごしたいっていう僕の我儘だからね」 「あはは、ラブラブですね。じゃあ、これ以上お邪魔したら悪いので行きます」 「ああ、道中気を付けて」 「はーい!ミサキさんも、今度はもっとお話しましょうねー!」 ぶんぶんと手を大きく振りながらハルカちゃんは走り去っていく。 年相応の元気な振る舞いに転ばないだろうかと心配になりつつ、私も手を振って応えた。 まだ出会って数分だけれど、無邪気でいい子だなあと思う。 年の離れた私にも臆せずフレンドリーに接してくれたし、私も仲良くなれたらいいな、なんて。 ……それなのに、そんな子に理由もよく分からないもやもやを抱くなんて、私はきっとどうかしてるんだわ…… 「……可愛い子ね」 「うん。彼女は少し前に石の洞窟で出会った子なんだ」 「随分親しげだったじゃない」 「ジムバッジを集めて旅をしているんだけれど、今みたいに偶然遭遇することが多くてね。だからよく話す方だとは思うよ」 偶然が多いなんてことある? なんて言えずに、私はダイゴをじっと見た。 その表情は心なしか楽しそうで、また気持ちがざわつく。 「まだ幼いながら、バトルのセンスも中々のものなんだ。きっといつか僕の所までくる。将来が楽しみだよ」 「……………ふーん」 「まあ、向こうは僕が現チャンピオンだなんて知らないから―――――――――ふ、ふふ、」 「どうして笑うのよ」 「可愛いなあって」 「はあ?」 「君が百面相しているのを見たら、可愛くて。そんなに、ハルカちゃんとの関係が気になる?」 悔しいから、図星だなんて絶対に言わない。 くすくすと笑うダイゴを睨みつけて、そんなことどうでもいいと強がった。 「これで少しは、君が外で他の男と会うのを僕が心配する気持ちも分かってくれたらいいのだけれど」 「わ、私は心配なんてしてない!」 「それならそういう事でもいいよ。でも、僕が愛しく思うのはミサキだけだから安心して。彼女とはただの知り合いだし、そう、強いていえば妹みたいなものかな。そもそも幼すぎる」 「……っ……」 私だけ、とダイゴは言うけれど。 そんなことを言われて、私は一体どんな反応をすればいいの? わからないのに、先程までのもやが晴れていくような不思議な感覚がして、代わりになんだか照れくさくなる。 「さあ気を取り直して、デート再開といこうか?」 にこりと笑って私の手を引くあいつに、私は複雑な気持ちで着いていった。 (顔が熱いのは気の所為に決まってる) 初めての感情 ← → back |