「うん、いいね!その大きめのレース似合うよ」 カナズミにいた頃によく通っていた、とあるショップ。 そこの試着室を出た私に待っていたのは、すこぶる上機嫌なダイゴからの褒め言葉だった。 実はここへ寄ろうと言い出したのはダイゴなのだけれど、なぜ私の行きつけのお店を覚えていたのかは定かでない。 私は彼が選んでくれたワンピースの裾を少し持ち上げて、自分の姿を見回した。 「……本当に?」 「もちろん」 「……そ、う」 「信じられないとでもいうつもりかい?」 「だってダイゴから似合わないなんて言われたことないもの」 「それはミサキのセンスがいいからじゃないかな」 「また適当なこと言って……」 「疑り深いなあ…………まあ、そんなことよりも、せっかくだし今日はこのまま着ていこうか?」 そう言ってダイゴはお会計を済ませに行く。 私はというと店員さんにタグを取ってもらうため試着室へと戻った。 これはデート……と彼は言うけれど。 ダイゴとのお出掛けをそう呼ぶには少し抵抗があった。 だって幼馴染みが相手なのにデートだなんて、大袈裟すぎでしょう? ………そう思うのに、いつもよりダイゴの言動ひとつひとつが気になって仕方ないのはどうして? 「お手をどうぞ、」 「…………なによ改まって」 戻ってきたダイゴが恭しく手を差し出す。 少し躊躇ったけれど、羞恥心をなんとか抑えて手を取った。 でもまさかそのまま指が絡んでくるなんて思ってもいなくて、私は恋人繋ぎをしたまま外へと連れ出されてしまう。 「ちょ、ちょっと……!」 「ん?」 「この繋ぎ方で外歩くの、恥ずかしい、から……」 「離したら迷子になるだろ?」 「なっ、なに馬鹿なこと言ってるのよ、地元なのに!」 「はは、それもそうだね」 くすくすと笑いながらも、どうやら離す気はないらしく、依然として絡んだ指が離れていくことはなかった。 よりによってこんな……というか、私の手、汗ばんでいたらどうしよう。 ダイゴは昔からモテていたし、こうして手を繋ぐことなんてたいしたことないのだろうけど、私は違う。 大人になってからは男性とまともに触れ合ったことなんてなくて、たとえ相手がこの幼馴染みだとしても緊張してしまうのはどうしようもない。 ちらりと目を向けたら、ショーウインドウのガラスに私たちが並んで映っていて、なんとも言えない気持ちになった。 「……ミサキ?」 「えっ、あ、ごめん、なに?」 「そんなに子供が欲しいのかい?それとも弟用かな」 「は…??」 「だって今、子供服の店を見てたから」 ダイゴに指摘されて、はっと我に返る。 私が見ていたのはガラスであって、お店の商品ではないのだけど………… 「ええと、そうじゃなくて、うーん…………」 弁明しようと思うのに、うまく言葉の続きが出てこない。 悩んだ末に私は曖昧に頷いておいた。 「一人目は女の子がいいな。ミサキによく似た愛らしい女の子がいい」 「ひ、一人目……?!ちょっとまって、なんで私が貴方の子を産む流れになってるのよ!」 「ふふ、僕はいつでも構わないよ」 「私は構います!!!」 「まあ、近い将来そうなったらいいな、って話さ。早く君が僕を好きになってくれるといいんだけどね」 「………ダイゴってばそればっかり!」 ぷい、と顔をそむける。 自分の唇がへの字に歪んでいるのがわかった。 ……好きになってと何度も言われたって、そんな簡単に受け入れられるわけがないのに。 よく思い出してみれば、いつだってあいつは思わせぶりなことばかり言っていたのに、それを素直に受け入れられなかったのは何故だろう。 勘違いしちゃ駄目、絶対に私じゃないから、とムキになって否定して。 決して好意を向けられることが嫌というわけじゃないのに、ただ、慣れないというか、こわいというか………… 本当に信じてもいいのか不安になってしまう。 「そう怒らないで………………あ、」 「…………?」 ふいに立ち止まったかと思えば、ダイゴの視線がとある少女へ向いていて、私は何事かと首を傾げた。 頭の上のバンダナがリボンのように揺れていて、活発そうな恰好をしているその女の子は、きょろきょろと辺りを見回している。 ……もしかして知り合い? それとも、これだけ目を惹かれているんだから、相当ダイゴの好みだったりして…… でも、どうみても十代前半?くらいだしなあ…… 「わあっ、ダイゴさんだ〜!」 向こうもこちらに気付いたみたいで、にこにこと駆け寄ってきた。 動く度にぴょこぴょこと揺れるバンダナがとても愛らしい。 私はダイゴの顔をちらりと窺って、にっこりと微笑んでいることを確認すると、何故かいたたまれない気持ちになった。 (誰だろう、この子……) デートinカナズミシティ ← → back |