それはものすごく小さな声だったと思う。
相手に聞こえているかどうかさえ微妙な、小さな質問。
こんなこと聞くなんて、まるで自意識過剰みたいで恥ずかしいけれど、それでも確認しておきたかった。
ダイゴが一言、そんなの冗談だって否定してくれれば、私はもう悩まなくても済むのだから。

……しばらく沈黙が続く。
ダイゴは一体なにを考えているのだろうか。
どくどくと心臓の音が速まっていく感じがして、とても居心地が悪かった。

それに、自分から聞いておいてあれだけど、返事を聞くのがとても怖い。



「…………今更?」

「……え?」



返ってきたのは、不思議そうな声だった。
どことなく呆れ混じりでもある。

……今更って、どういうこと?



「心配したじゃないか………………様子がおかしいからなにかと思えば、そんなこと?」

「そ、そんなことって……!」



私はたくさん悩んだのに!!



「だいたい、君にはたくさんアプローチしてきたつもりだけれど、全く伝わってなかったんだね」

「…………え?」

「よく考えてみて。普通、好きでもない子にキスするかな」

「それは確かにそうだけど…………ダイゴなら有り得ると思う、し……」

「ちょっと待って、僕はそんなに軽くないよ」

「女の子大好きじゃない」

「いつからそんな誤解が…?!」



はあ、とあいつは溜め息をついた。
そして、こっち向いてと言われたけれど、私は断固として向かない。
しばらくして痺れを切らしたのか、ダイゴはぐいっと私の顔を両手で挟んで無理矢理視線を合わせた。

真剣なその眼差しに、どくん、と心臓が高鳴る。



「……………ミサキ、好きだよ」

「……そんな、うそ、」

「嘘じゃない。ずっとずっと、僕が旅立つよりもずっと前から君が好きだった」

「………っ…」



こんなの、嘘に決まってる。
ありえない。
ダイゴが私を好きだなんて、そんなの悪い冗談でしょう?

……そう思いたいのに、ダイゴの表情を見ていたら信じざるを得なかった。
だってあんな真面目な顔をして言うなんて、ずるい。



「それで、ミサキは?僕のこと、好き?」



今まで誰かを好きになったことなんてなくて、どういう気持ちが好きという感情なのかわからなかった。

だって、あの時からダイゴのことはずっと嫌いだって思ってきたし…………
それは意地を張っていただけだっていうのは今日気付いたことだけれど、でも、だからといってあいつのことが好きというわけでもないし…………
こんなにも自分のことがわからないなんて、どうしたらいいのだろう。
なんて答えたらいいのか悩むし、どうしようもなく苦しい。



「……そんなこと……聞かれても、わからないわ」

「はは、嫌いって言われないようになっただけ進歩したかな」



そう、嫌いだった。
私を置いていったダイゴなんて、もう帰ってこなければいいと思った。
7年間も一切連絡くれなくて、それなのにのこのこと帰ってきたと思ったら、いきなり結婚とか同棲とか言いだして。
そんな虫のいい話、素直に受け入れられるわけがないでしょう?

今頃好きだなんて言われても、ダイゴは幼馴染みだし……そんな人と恋愛なんて、想像もつかない。
…………でも、確実に絆されつつある。
それだけは事実だった。



「君を振り向かせるためにこれからも頑張るよ」

「………………勝手にどうぞ」



ぎゅうう、胸が締め付けられるように苦しい。
なんでこんなにも辛いのだろうか。

それに私の返事も可愛くない。
他にももう少しましな言い方があるというのに、こんな風に冷たい言い方しかできないなんてどうかしてる。



「そうだ、手始めに明日デートしないかい?」

「デ、デート??そんないきなり???」

「そう、せっかく久々にカナズミへ来たんだしね」

「普通にお出掛けしようって言えばいいじゃない……」

「いやニュアンスが全然違うよ」

「たいして変わらないわよ!」



そんなやりとりをしているうちに、いつのまにかダイゴの顔を自然に見れるようになっていた。
会話もちゃんと続いているし、いつも通りの私たちに戻っている気がする。



「いいかい、ミサキ。明日はたくさん君を甘やかしてあげるから、僕のことだけを見ているんだよ」

「……なっ、」

「ふふ、そうと決まったら早く寝よう」

「いやいやいや、なんで当然のようにベッドの中に入ってきてるの?」

「駄目?」

「せっかく部屋用意したんだからそっちに帰ってよ!」

「細かいことはいいじゃないか」

「いいわけないでしょーーー!!!」



翌日、同じ部屋から出てきた私たちを見てあらぬ噂がたったのは言うまでもない。





(丸め込まれてしまう私も悪いのだけど)

ずっとずっと、好きだったよ



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