ベッドの中で、はあ……と溜め息をつく。
もうすっかり夜も更けて、いつもなら眠っている時間だった。
もちろん、ダイゴには別室を用意させているので今夜はひとりきり。
やっと落ち着いて過ごせる時間がきたと、ほっとしていた。

頭の中をよぎるのは、先程の夕食会でのこと。
やっぱりそこでは私とダイゴの話でもちきりで、返答に困った。
夕食会自体はとても楽しかったのだけど……なんというか、その、質問攻めは心臓に悪い。
それに、ダイゴがなにか言いたそうにこちらを見てくるものだから、視線が痛かったというのもある。



「どうしよう……」



ぽつり、独り言をつぶやいた。
明日からトクサネに戻るわけだけど、そうしたらまたふたりきりの生活が待っている。
あんなことを聞いてしまって平常心を保てないでいる私は、今まで通りに過ごせるか不安だった。



「私のことを好き……だなんて、そんなはずは…………」



あるわけない……と思いたい。

悶々と頭を悩ませていたら、ふいにドアがノックされて、突然のことにびくりと震えあがる。
こんな遅い時間に誰だろう。
屋敷にいる使用人は夜でも数名待機しているけれど、よっぽどのことがない限り起こしに来ることはありえない……のに……



「ミサキ、僕だけど」



私が間違えるわけない。
その聞き覚えのある声は、確かにダイゴだった。



「…………もう寝た?」



返事なんてとてもできなかった。
今会っても気まずいだけだから、と寝たふりをする。
しばらくお互い沈黙が続いて、そのうち諦めて去っていくだろうと思っていたら、ガチャ、とドアが開く音がした。
そのままダイゴは部屋へと入ってきて、ベッドに手をつく。
目を閉じているから詳しくはわからないけれど、ひしひしと視線を感じることから、きっと見下ろされているのだろう。

……いや、待って、どうして?

鍵かけていたはずなのに…………なんて不思議に思っていたら、そういえば前にお母さんから合鍵もらっていたことを思い出した。
こんなことになるなら取り上げておくんだった、と後悔しても今更もう遅い。



「……ミサキ?」



名前を呼ばれたけれど、私は相変わらず寝たふりを決め込む。
早く出ていってくれればいいのにと祈るばかりだった。



「いけない子だね、君は」



本当は起きてるくせに……そう呟いて、ダイゴが近付いてくるのがわかった。
唇に吐息がかかったかと思えば、やわらかいものが触れる。
ここまでされたらもう寝ているふりなんてしていられなくて、私はぱっと目を見開いた。

わざとなのか、それとも周囲が静かだからなのかはわからないけれど、やけにリップ音が響いた気がする。



「い、いま、き、き、き、きす、」

「おはよう」



にこり、あいつが至近距離で微笑んでくる。
すぐにでも起き上がってこの部屋を飛び出したい勢いだったけれど、逃げられないようにするためなのか、頭の両サイドをダイゴの腕に塞がれていた。



「な、なに、して……」

「なにってキスだね」

「なんでそんなことを、というより、寝込みを襲うなんて卑怯よ……!」

「寝込み?起きてたじゃないか。あれ、寝たふりだろ?」

「っ!」



全部お見通しとでも言いたいのだろうか。
私は気まずくなって顔を背けた。



「またそうやって逸らす……夕食の時も一切こちらを見ようとしなかったね」

「……気のせいじゃないの?」

「そんなはずない。僕がわからないとでも思った?」

「うっ……」

「なにか言いたいことがあるなら早めに言ってほしいな」



言いたいこと…………といえば、さっきのキスはどういうことか、とか……
あと許可なく部屋に入ったことも許せないし、昼間お母さんから聞いた話についても問いただしたかった。
話したいことはたくさんあるのに、うまく言葉にならなくて。
ダイゴの顔も気恥ずかしくて見れないし、私は本当にどうしてしまったのだろうか。

でも、聞かなくちゃ。
勇気を出して、これだけは。



「なら…………ひとつ、聞いてもいい?」

「ああ、なんだい?」

「…………ダイゴは、私のこと、好きなの?」





(でも、こんなことを聞いて私はどうしたいんだろう)

狸寝入りの代償



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