「今思い出すと、それはそれは熱烈な想いを語ってたわねぇ」

「ね、熱烈……?!」



ダイゴが私に対しての想いを熱烈に語った、というのはどういうことだろうか。
それはあまりにも信じ難くて、思わず私は眉をひそめた。
だって、あのダイゴがそんなことを言うなんて……



「お母さんとお父さんはね、そんなダイゴくんならミサキをきっと幸せにしてくれると思って、快諾したのよ。よく思い出してみて。一緒に暮らし始めて、どうだった?あなたをたくさん愛してくれたでしょう?」

「…それは……」



たくさん構うのはほぼ嫌がらせだと思ってたけれど、でもよく考えたら、いつだってダイゴは優しくしてくれた気がする。
婚約の件やベッドの件も含めて無理強いされたことは多少あるけれど、基本レディファーストだし、プレゼントをくれたり家事をまめに手伝ってくれたりと細かな気遣いをいつもしてくれていた。

……だからといって、それが私を本当に好きなのかどうかの証拠にはならないけれど。
だってあいつは女の子なら誰にでも優しいから、別に相手が私じゃなくてもいいんじゃないかって思うし……



「お母さん、前にも言ったでしょう?問題は、あなたが彼の愛を受け止めきれるかどうかだって」

「うん……でも…」

「今更何を戸惑うことがあるのかしら?」

「本当にダイゴが私のことを好きだとしても…………私はダイゴのこと嫌いだもの」



そう、あの時私は嫌いになるって決めたの。
ダイゴなんて大大大大嫌い。
石が大好きで、聞いてもいないのに熱く語り出すところも、誰にでも優しくするところも、私にたくさん構ってくるところも、思わせぶりなことばかり言うところも、全部全部大嫌い。

大嫌い………なんだから……



「嫌いってミサキは言うけれど、それってそう思い込もうとしているだけじゃなくて?」

「そ、そんな、こと、ない」

「いいかげん許してあげて。ダイゴくんはちゃんと約束を守って帰ってきたでしょう?」

「…………」

「もう、嫌いだって強がらなくていいのよ」



するり、お母さんの手が伸びてきて私の頭を撫でる。
私は決して強がってなんていない、と思う。
それなのに、どうしてだろう?
お母さんの言葉を聞いて何故か胸が軽くなった気がした。

本当に私は……ダイゴのことを嫌い……?

どくどくと心臓の音が速くなって、その場に響いているんじゃないかと思うくらいにうるさかった。
好き、嫌い、そんな言葉が頭の中をぐるぐると駆け巡って、思考がうまくまとまらない。



「そろそろ素直になりなさい、ミサキ。好きになることは決して悪いことじゃないわ」

「……そんなこと、わかってる」



好きになることが悪いことなわけないじゃない。
それはわかってる…………でも、それはダイゴへの気持ちとは別問題なの。
私があいつをどう思ってるのかなんて、自分でもわからない。
……けれど、嫌いっていうのは確かに意地を張りすぎていた気がする。

だからといって、好きというわけでもないし……
一体私はどうしたいのだろう。


……そうして悶々と悩み続けていたら、いつのまにか相当な時間が過ぎていたらしく、ダイゴが帰ってきた。
あんな話の後だからなのかまともに顔を見ることができなくて、私は弟の様子を眺めているふりをしながら平然を装う。
ものすごく居心地が悪いというか、気まずくて、この場から逃げたい気持ちでいっぱいだった。



「ごめんねダイゴくん、ミサキとの時間を奪ってしまって」

「いえいえ。そういえば、僕の両親が今夜は久しぶりにみんなで夕食を食べようって言ってました。いかがですか?」

「あら、よろこんで!ミサキもいいわよね?」

「…………う、うん」



おじさんとおばさんに会えるのは久しぶりなので嬉しい。
けれど、夕食中に話題にあがるのはきっと私とダイゴのことが中心になるだろうから、それについては複雑な心境だった。
どう受け答えしていいのかわからないからものすごく困る。



「弟ができてよっぽど嬉しいみたいだね」

「…………う、ん」



ふいに話しかけられて声が上擦ってしまった。
いつのまにやら隣にきていたらしく、私はびくりと体を震わせる。
そんな挙動不審な態度をしていたら怪しまれるのは当然で、ダイゴは探りを入れるかのようにこちらをじっと眺めていた。

ああもう落ち着いて、私!



「…………ミサキ?」

「……うん」

「君おかしいけど、なにかあった?」

「なにも、ない、けど」

「嘘だろ、それ」

「う、嘘なんかじゃ……」

「じゃあどうして僕の方を見ようとしないのか説明してくれるかな」

「…………」



少し声のトーンが低くなったところから察するに、これは完全に疑われている。
私は言いようのない緊張感に冷や汗が伝う感じがした。

そして、ぐぐぐぐ、とぎこちなく顔をダイゴの方へ向けようとして――――――



「………っ!」



ばっちり目が合ったところで、やっぱり気恥ずかしくなって顔を背けた。

だ、だめ、やっぱりダイゴを直視できない……!
もう無理、こうして話しているだけでも心臓が痛い。
いっそのこと消えてしまえたら、どんなに楽になるのだろう。



「…………なにかミサキに吹き込みましたね?」

「ふふふふ、なんのことかしら??」



本人から直接聞いたわけでもないのに、そんな証拠もないことを信じちゃ駄目だっていうのはわかってる。
でも、あんな衝撃的な話を忘れるなんてこと、私には到底できそうになかった。





(本当の気持ちは、どこにあるの?)

正体不明のもやもや



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