「…………それで、あなたたちは一体どこまで進んだの?」

「っ、ごほ、っ…!?」



ダイゴが出て行ったあと、にこり、いつものようにふんわりと微笑みながらお母さんが問う。
あまりに突拍子もない台詞だったから、私はむせて咳き込んだ。
お母さんのことだから、きっとこんな事だろうなとは心のどこかで思っていたけれど、やっぱり実際に尋ねられるとどうにも気まずいものがある。
ダイゴとどこまで進んだか、なんて聞かれても、親に答えられるわけがなかった。



「お、おお、お、お母さん!」

「あらなあに、もしかしてまだ最後までいってないの?」

「さ、最後までって……!」

「その調子じゃキスもまだかしら……」

「うっ………」

「なるほど、そこまではしたのね」

「も、もう!からかうのやめてよ……!」

「ふふ、ミサキは本当に分かりやすいわねえ」



年頃の娘になんてことを聞くのだろうか。
天然なのか計算してるのかは知らないけれど、昔からおっとりしているくせに勘だけは鋭くて、思ったことは直球で言ってくる人だった。



「どう?一緒に住んでみて…愛は深められた?」

「……そんなの、無理よ」



愛だなんて、そんなの元から深める気もなかった。
私はダイゴのことを好きではないし、向こうだってもちろんそうに決まってる。

……それなのに。



「最近、あいつが何を考えてるのかわからないの」



まるで恋人にかけるかのような台詞を私に向けて言ってきたり、スキンシップが激しかったり……なにかと理由をつけて近付いてくる。
どうしてここまで私のことを構うのだろうか。
放っておいてほしいと思うのに、ダイゴがいつも思わせぶりなことばかりするから、こうして私がもやもやするんじゃない……



「私と結婚したいだなんて、どうかしてる」

「……もしかしてあなた、まだダイゴくんのこと疑ってるの?」

「疑うもなにも、向こうは私のことなんて、」

「見ての通りじゃない。あれだけミサキにぞっこんなのに」

「そんなの、気のせいだわ……」



気のせいに決まってる。
私に必要以上に構うのは、そう、これはきっと嫌がらせ。

でないと、しつこく付き纏われる理由がない。



「…………そうだ、ひとついいことを教えてあげる」



そう言いながら、腕の中の赤ちゃんをソファに横たえて手招きする。
私は今まで座っていたところから離れてお母さんに近付いた。



「なあに?」

「これは7年前のお話よ。彼ね、旅立ちの前日、お母さんとお父さんにお話があるって会いに来たの」

「……ダイゴが?」

「そう。それで、なんて言ったと思う?」

「……?」

「その時は旅に出ることとか夢のこととか色々なお話をしてくれたんだけど、本題はもっと違うところにあってね。夢を叶えてカナズミに戻ってきたら、その時はミサキを僕に下さいってわざわざ頭を下げたのよ」



その話を聞いて、私は目を見開く。
まさかダイゴが私の両親とそんなやりとりをしていたなんて知らなくて、頭の中が大パニックだった。



「え、そ、それって……結婚の話は、親同士が決めたことじゃ…………」

「ふふ、実はダイゴくんの希望なの。黙っててって言われてたけど、言っちゃった」



いたずらっ子のような顔をして、お母さんが口元に人差し指を立てる。
お母さんがバラしたことはダイゴくんには内緒にしてね、なんて言ってくすくすと笑っていた。
お母さんの言うことだから本当の話なのだろうけど、だからってそのまま鵜呑みにしていいのだろうか。

だってこんなの、ダイゴがまるで私のことを………

好きみたいじゃない…………





(そんなの、ありえないでしょう?)

昔話をしましょうか



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