あの夜から、ダイゴは毎晩のように私を抱き枕代わりにするようになった。
あれは一晩だけって約束のはずで、おかしいとは思いつつも、結局言いくるめられてしまって折れるのは私の方。
もちろんあの時のように強制されているわけではないからダイゴに背を向けているけれど、おなかに回された手が朝まで退くことはなかった。
逃げようとしても逆にまとわりついてくるので、私ももう諦めている。
背中に感じる温もりに、ドキドキしているのが悟られないように平静を装うのが大変だった。

というか……これ罰だったはずじゃ…?
あの夜だけで充分に辱めは受けたし、たくさん反省したし、それなのに継続っておかしいよね?

…………絆されている気がする。

これは気のせいじゃない。
自分でもよくわからないけれど、どうして受け入れてしまうのだろうか。



「さあ着いたよ」



そう言ってダイゴはエアームドをボールの中へとしまった。

今日はダイゴがオフの日なので、久々に両親に会うためカナズミにある自宅まで連れてきてもらったのだ。
私はもうすっかりエアームドに乗るのも慣れて、前みたいに酔うことはなくなった。
酔う度にあいつの胸を借りることになるのも癪だったので、心底ほっとしている自分がいる。



「おかえりなさいませ、お嬢さま、ダイゴさま」

「ただいま!」



そう言って、玄関で出迎えてくれた使用人たちに帽子や鞄を手渡す。
久々に帰れたものだから、嬉しいのと懐かしいのとで自然と顔が綻んだ。

軽い足取りでリビングへと進めば、お母さんがいて。
赤ちゃんを抱いてソファに座っていた。



「お母さんただいま!」

「おかえりなさい、ミサキ」

「ご無沙汰してます」

「ふふ、ダイゴくんもおかえりなさい」



にこやかに出迎えてくれるお母さんを見て、より一層実家に帰ってきたのだと実感が湧いた。

でも、なんだろうこの感じ…………
この間まで帰るべき家はここだったはずなのに、またここで生活できるかと言われたら、なんとなく違和感がある。
長年離れていたわけでもないのに、ここまでダイゴとの暮らしに感化されているとは思わなかった。



「あ、そうだ、これお祝いに」



そう言ってテーブルに置いたのは、先程購入してきたプレゼントだった。
中身は幼児向けのおもちゃとか、衣類とか。
まだ産まれてからそんなに経っているわけじゃないので、少し気が早いかもしれないけれど。
でもそのうち使ってくれたらいいな、なんて……ね。

それにしてもお母さんはよく頑張ったなあ、と思う。
外見は若く見えるけど、実年齢はそれなりにいっているのだし、本当にすごい。
いつまでも両親の仲がいいのはいい事だけどね。



「ありがとう。…………ほら見て、あなたの弟よ」



こそりと覗き込むと、赤ちゃんはすやすやと寝息をたてて眠っていた。
顔も、口も、鼻も、手も、何もかもが小さくて、まるで人形みたいだし、なにより触れたら壊れてしまいそうなくらいに儚い。
よく赤ちゃんのことを天使と形容する人がいるけれど、この愛らしい寝顔を見れば、確かにその通りだった。



「かわいい……どことなくお母さんに似てる気がする」

「でしょう?みんなそう言うの」

「どんな子になるか、将来が楽しみだね」

「時々は遊んでやってね、お姉ちゃんとして」

「……うん!」



お姉ちゃんって、なんていい響きなんだろう。
今までずっと一人っ子だったから、余計に嬉しかいのかもしれない。



「そういえば、今日はふたりとも泊まっていくんでしょう?」

「えっ、泊まっていいの?」

「なに遠慮してるの、あなたの実家じゃない。それにお父さんがね、今は仕事に行っていていないけれど、とても会いたがっていたから」

「じゃあ、久々にゆっくりしていこうかな……ダイゴはどうする?」

「ああ、僕も明日は休みだから、せっかくだしお言葉に甘えさせてもらおうかな」

「うちに泊まっていくの?隣なんだし、実家に帰ったら?」

「それもそうだけど……ミサキは僕が隣にいなくても眠れるのかい?」

「えっ」

「あらあらあら、それなら客室を用意させなくてもミサキの部屋で充分かしら」



ダイゴの発言にも驚かされたけれど、お母さんの発言にも頭が痛くなった。
私はダイゴがいなくても眠れるし、むしろいない方が変にドキドキしなくて済むし安心するよ!!
なんで実家に帰ってきてるっていうのに一緒の部屋で過ごさなくちゃいけないの!



「ちょ、ちょっと、おかしな事言わないで!」

「おかしな事じゃないだろ?だって毎日……」

「わーわー!!それ以上言わなくていいから!!!」

「ふふ、相変わらず仲良しねえ」



どこが!!!!!



「とにかく別室よ、別室っ!」

「えー」

「えーじゃない!」



拗ねたような声をあげるダイゴに一喝して、私は溜め息をついた。
そんな様子を見てなのか、お母さんが何かを閃いたかのように口を開く。



「ねえねえダイゴくん、女同士でお話したいことがあるから少し席を外してくれないかしら?」

「わかりました。それでは僕は少し親に顔を見せてきますね」

「悪いわね、ほんの少しでいいから……」

「いえ、久々の親子水入らずですし、ごゆっくり」



そう言ってダイゴはにこやかに退室した。

お母さんの話ってなんだろう?
正直、あまりいい予感はしないのだけど……





(ダイゴがいると困ることなのかな?)

束の間の帰省



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