「どうしてそう離れようとするかな…」 「当たり前でしょ!!!」 私はベッドへと引きずり込まれた後、すぐさまダイゴとの距離をとった。 それもできるだけ遠くなるように。 端に寄りすぎたせいかあと少し動いたら落ちそうだけれど、そんなの気にしない。 今はこいつから数センチでも多く離れるのが先決だもの。 もはや寝室から出ていきたい……と思うものの、引きずり込まれてから腕はしっかりと掴まれたままで、逃げるにも逃げられない状態だった。 「そんなに離れていたら普段と変わらないじゃないか」 「全然違うわ、ダイゴの方を向いてるもの」 「そんな屁理屈が僕に通用すると思っているのかい?」 「それをいうならダイゴだっていつも屁理屈ばっかりじゃない!」 そう、ダイゴは都合のいいことばかり言っていつも私を翻弄する。 7年間一切連絡を寄越さなかったくせに私を忘れたことはなかったとか言うし、結婚のことだって家のことは関係ないとか、私のことが本気で欲しいとか、意味がわからないことを言うし、いつだってダイゴの言うことは冗談ばっかりで。 …………私は、絶対に信じない。 あいつの言葉なんていちいち信じてたら、後で絶対後悔するから。 大嫌いなんだもん。 私は絶対、ダイゴなんて大嫌い。 それでいいの。 「意地張っていないで、ちゃんとこっちにおいで」 「あっ…!」 はあ、と大袈裟に溜め息をついたダイゴに思い切り引っ張られたかと思えば、次の瞬間、目の前には彼の首筋があって。 びっくりして離れようとする前に、背中にダイゴの腕がするりとまわって、逃げられないように固定された。 絡んでくる足に、びくりと震えあがる。 「ちょ、ちょっと、やだっ」 「やだじゃない。元々こういう約束なんだから観念しなさい」 「や〜〜だ〜〜〜!!!」 だから、まだ心の準備が出来てないっていってるのに! 少しくらい待ってくれてもいいじゃない! なんてせっかちなの!! ……なんて、心の中で悪態をついていたら、その隙に私の腕をダイゴの背中へとまわされた。 これじゃ本当に抱きしめあっているみたいで、恥ずかしい…………というかこれはもはや恥ずかしいどころじゃない。 心臓に悪すぎて、死んでしまいそう…! 「はい、手はこっち」 「こ、こんなに密着しなくても…」 「本来ならミサキから抱き着いてくれなきゃ罰にならなところを、仕方なく僕からしてあげているんだから批判される謂れはないよ」 「仕方なくっていうくらいならいつでも離してくれて結構だけど!」 「……へえ、可愛くないことを言うね?」 ……そうよ、私は可愛くないもの。 そんなの昔から一緒にいたダイゴが一番よく知っているでしょう? 性格も素直じゃないし、顔も特別綺麗というわけじゃないし、私の取り柄なんて花嫁修行のおかげで家事が得意になったことくらい。 良家のご令嬢という立場なだけで、他は全部平々凡々な女の子。 対して、ダイゴは周りの女の子たちから性格良し・ルックス良し・家柄良し、おまけにポケモンバトルもホウエン最強と言われてちやほやされているし、そんな人が私と結婚したがっているなんて、信じられるはずがない。 家のため……そうじゃなければ私をからかって遊んでるとしか思えない。 それなのに、ダイゴが必要以上に構ってきたりするから、私の決意が揺らぐんじゃない…… ダイゴが旅立ったあの日、もうダイゴなんて嫌いだと強く決めたのに。 「うそ、ミサキは可愛いよ」 急にふわりと表情を柔らかくしたダイゴは私の額に口付けた。 私はというと、思いもよらない言葉に驚きすぎて体が固まっていた。 「えっ、あっ、何言って……」 「そのすぐ赤く染まる頬も、いじっぱりでつれないところも、実は寂しがり屋で泣き虫なところも、全部可愛い」 「な、ななな、頭おかしいんじゃないの…!」 「はは、素直に喜べばいいのに」 君は自分の事を悪く評価しすぎかな、なんて言ってダイゴはまるで宥めるかのように私の背中を撫でる。 腰のあたりに触れられるとぞくりと体が反応して、耐えきれずにダイゴの寝間着をぎゅうっと握り締めた。 そんな様子を見てなのか、あいつは腰ギリギリのところで手を止めたから、私は気が気じゃない。 このままお尻でも触り始めたら絶対に殴ってやる、と心に固く決めて目を閉じた。 早く寝て朝になってしまえばこのつらい状況から解放されるというのに、心臓がうるさくて眠るどころじゃなかった。 それに、顔……というより全身が熱い。 「やっと大人しくなったね」 「…………ダイゴが何を言っても聞かないから、諦めただけ」 「じゃあ今なら何をしても怒られないかな」 「へっ、変なことしたら通報するからっ!!!」 「冗談なのに……」 冗談ならもっとマシなものにしてよ! 「ダイゴなんて知らない!もう寝るっ!」 「ごめんごめん、そんなに警戒しなくても大丈夫だから……おやすみ、ミサキ」 「…………」 「返事もしてくれないのかい?」 「……おやすみ」 「うん、おやすみ」 そうして私たちは眠りについた。 慣れない体勢で寝たからなのか、途中で何度も目が覚めたけれど、いつみてもダイゴはすやすやとのんきな寝顔を晒していて苛立ちが募った。 熟睡しているくせに私をがっちりと抱きしめていて、一向に離れる気配がないのはどうしてだろうか。 やっぱりダイゴは何も考えてない。 私ばっかりこんなにドキドキしていて、馬鹿みたい。 (欲求不満ならよそで発散してくればいいじゃない) 腕のなかで眠る夜 ← → back |