「さあ、お手並み拝見といこうか」



ベッドの上であいつが楽しそうに笑う。
どうしてこんなことに……なんて必死に考えてみても、この状況が理解できるわけもなかった。

遡ること数時間前。
そう、罰がどうのこうの言っていたあの話の後。
私たちはごく自然に夕食になり、いつもの流れでお風呂に入ったり身支度したり……普段通りに過ごしていた。
その間の会話でもダイゴはいつもと変わらない様子だったし、だから私はてっきり冗談だとばかり思っていたのだけれど。

……それなのにまさか、寝るときになってから本気だったと判明するなんて。



「お、お手並みって何の…………」

「簡単なことさ。さっきも言っただろ?」



つい先程言われた台詞が脳内で再生される。



『僕を喜ばせてごらん。今、ここで』



……正直に言って、単に喜ばせるだけなら罰にしてはとても簡単なものだと思う。
でもこの男がこんな簡単なことで満足するわけがないことは分かってるから、この要求の裏にはきっとなにかしらの思惑が潜んでいるのだろう。

…………なんて、深く考え過ぎ?



「一応聞いておくけど、何が望みなの?」

「それを当てるのはミサキの役目だよ」

「…………」

「婚約者の喜ぶことくらい、ちゃんと把握していないとね」



そうダイゴは言うけれど、私はまだこいつを婚約者だと認めていない。
でも、だからといって本気で婚約を破棄しようと動いたわけでもない。
自分でもびっくりだけど、あんなに嫌がっていたのに結局何も行動に移さず、この同棲だってもうすっかり受け入れてる。

今でも、親に決められた結婚なんてしたくないっていう気持ちは変わらない。
ちゃんと恋愛をして、好きだと思える人と一緒になりたい。
ダイゴなんて大大大嫌いで、結婚したいと思える人から一番遠い存在だったはず…………なのに、どうしてか最近心を揺さぶられることが多かった。

どうして?
私、ダイゴのこと嫌いなんでしょう?
自分のことなのに、なんでこんなに分からないの……



「とりあえず、そんなに警戒していないでこちらへおいで」



今までずっとドア付近で立ち尽くしていた私に痺れを切らしたのか、ダイゴが隣まで来るように合図する。
いつまでもこうしているわけにもいかないので、大人しくあいつに従った。

少し距離をとって、ベッドにあがる。



「はは、相当嫌そうだね」

「嫌な予感しかしないわ」

「それは君次第じゃないかい?」

「……どういうこと?」

「どんなことを想像したか知らないけど、これから起きることはすべて、君がうまく僕のことを喜ばせることができるか否かにかかってるよ」

「もしも私ができなかったらどうするの?」

「できるまで寝かせてあげない」

「う、嘘でしょ…………」



こいつは一体何を考えているのだろうか。
たとえ幼なじみだとしても、ダイゴのことが全て理解できているわけじゃないのに。
というか、むしろ何を望まれているのか全く分からない。

それなのに、こんな要求……私に叶えられると本気で思ってるの?



「ミサキが大嫌いだというこの僕を喜ばせないといけないなんて、君には苦痛だろうね。……だからこそ罰にする意味があるのだけど」



そう言って、ダイゴは自嘲するかのように小さく笑った。
そんな顔されたら、なんだかこっちが悪いみたいじゃない。
……いや、みたいじゃなくて、今回の件は確かに私が悪いのだけど。



「……ねえ、何か欲しい物があるとか?」

「ミサキの他は何もいらないよ」

「悪ふざけはやめて。物はいらないなら、して欲しいことがあるのね?」

「まあ厳密にいえばそうだね。ミサキからされて僕が喜ぶようなことを考えてみて」

「……マッサージ、とか」

「うーん、確かに嬉しいけど今は肩が凝ってるわけじゃないし大丈夫。それにあまり罰っぽくないな」

「罰っぽい………ダイゴは喜ぶけど私は嫌がること…………とすると、石自慢に付き合うこと?」

「いや、これから寝るって時に流石にそれは……してもいいけど」

「遠慮します」



これからやらなくてはいけない罰の内容を自ら考えるなんて、地獄のようだった。
人が喜ぶことなんてたくさんあるはずなのに、なんでこういう時に限ってなにも浮かばないのだろう。

最近のダイゴのことを考えてみればなにか分かるかもしれない……なんて思ったものの……
ダイゴと再会したと思ったら無理矢理キスされて、無理矢理婚約もさせられて、抗う暇もなく同棲生活がスタートして、寝室やベッドのことで揉めたり、エネコをプレゼントしてもらったり、ミクリとお出掛けしたら怒られたり、マグカップを贈ったら喜ばれたり、セクハラまがいのことをされたり、帰るのが遅ければ怒られたり。
うーん…………考えれば考えるほど、余計に分からなくなった気がする。



「もうヒントはないの?」

「先程の説明で充分だと思ったのに足りないのかい?」

「いいじゃない、あと少しくらい」

「まったく……………わかった、僕もそこまで意地悪じゃないから、いっそのこと3択にしようか」

「本当に?!」

「うん。おやすみのキスをするのと、愛の言葉を囁くのと、抱き合って寝るの、どれがいい?」

「…………………………は?」



思いも寄らない言葉に、私は瞬きを繰り返していた。





(できれば聞き間違いであって欲しい)

知りたくなかった選択肢



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