「おかえり、ミサキ」 「あっ…………ただいま」 ミツルくんとのお話を終えて私が帰宅したときにはもうすっかり陽も暮れていて、やはりというべきか、すでにダイゴが帰っていた。 うわあ…………とこっそり苦笑いを浮かべつつ、何事もありませんようにと心の中で祈る。 以前からダイゴがいないときは暗くなる前に絶対に帰るようにと約束させられていただけに、とても気まずかった。 でも、私ももういい大人だというのに、いくらなんでも心配しすぎだと思う。 ……なんて言っても、全く取り合ってくれなかったけれど。 今日のミツルくんのお話はどれも私の知らないことばかりで、興味深かった。 ポケモンの特性のこととか、性格によるそれぞれの能力の上昇率がどうのこうの……とか。 正直に言うとあまり理解できた気はしないけど、それでもとても充実した時間だったと思う。 そのせいか少し話しすぎてしまって、予定よりも帰宅が遅くなり今に至る。 うう、ダイゴの視線が痛い………………気がする。 これって、気にしすぎ? 「またいつもの散歩かい?」 「う、うん」 「最近あやしい行動をしている者が増えているから、暗いところをひとりで歩いてほしくないな」 「…………ごめんなさい」 今まであいつにどう思われていようと気にしなかったし、私だってあいつのこと嫌いなんだから、むしろ嫌われてもいいと思っていたくらいなのに。 なのに、こんな風に機嫌を窺うなんて、私らしくもない。 「……やけに素直だね?」 「そう?」 「うん、らしくない」 「……ひどいこと言うのね」 きっとこれは、約束を破ったことに対する罪悪感。 うん、きっとそう。 それしかない。 「何かあった?」 ぽん、頭の上にダイゴの手が乗る。 それはまるで撫でるかのようにゆっくりと髪を梳いていった。 「……なんでもない」 「言わないと分からないよ」 「本当になんでもないから大丈夫。…………それよりね、見て、今日お散歩に出ていた時にたまごを貰ったの」 そう言って話をすり変えたのは、我ながら無理矢理だったと思う。 でも、そうでもしないとこのままずっと質問責めにされそうでこわかった。 「これはポケモンのたまごじゃないか」 「うん」 「………………一体どこの誰に……」 「今日出会ったミツルくんっていう子なんだけど、旅をしてるらしくて」 「男?…………ふうん、どのくらいの年齢?」 こころなしか、ダイゴの顔がひきつった気がした。 相手の年齢なんて聞いてどうするのだろうか。 「うーん……見た目的には10代前半くらいかなあ」 「……それくらい幼いなら、いいか」 ぼそり、ダイゴが呟く。 小さな声だったけれど、今日はばっちり聞こえていた。 幼いとなにがいいんだろう? それって大人だったら駄目ってこと? あいつの言うことはいつも私を混乱させる。 「なんの話?」 「ふふ、秘密」 「…………あらそう」 「ああ、拗ねないで。本当になんでもないよ」 「それ、さっきの私の真似してるの?」 「さてどうだろうね?……それより良かったじゃないか、初めてのたまごだろう?」 この無理矢理なはぐらかし方も、さっきの私みたい。 まるで、さっき私が話を逸らしたのを咎めているかのような…… ダイゴは表面上は普通にしているけれど、あまりよく思っていないようだった。 「……怒ってるでしょう」 「何故?」 「言い方が少し刺々しいもの」 「そうかな……いや、ミサキが言うんだからそうなんだろうね」 「約束を破ったことを怒ってるの?それとも話をはぐらかしたこと?」 「……さて、どちらかな」 どちらにせよ、非があるのは確実に私の方だ。 約束をしてしまった手前、それを破ったのは私だって悪いと思ってる。 そしてダイゴは少し屈んで、私に言い聞かせるように目線を合わせた。 「僕はね、なにも君をずっと家に縛り付けたいだなんて言ってない。ただ最近物騒だから、ひとりで夜道を歩かせたくないんだ。それだけは分かってほしい」 「そんなの分かってる。でも、もう子供じゃないわ」 「それは同い年だし、子供じゃないのはよく分かってるつもりさ。そうじゃなくて、君が女性だからこそ僕は心配しているんだよ」 女性だからこそ…………だなんて、ずるい。 そんな真剣な顔をされたら大人しく頷くしかないじゃない。 ……とはいえ、押し切られちゃう私も私だと思うけれど。 「…………明日からもっと気を付ける」 「うん、そうして。いい子だね」 また、頭にぽんとダイゴの手が乗った。 こういうところが子供扱いしているようで嫌なのに、あいつは全然分かってない。 「珍しく素直なミサキに免じて許してあげたいところだけれど、でも君が僕との約束を破ったのは紛れもない事実……」 「………うん」 「きちんと反省しているようだから、今回は軽い罰で許してあげようかな」 「うん…………って、え???」 ちょっと待って、どういうこと? こんな些細なことで罰? (ダイゴはにこり、うさんくさい笑顔を浮かべた) 君だからこその心配症 ← → back |