あれから数日後、私は月の石をつかうタイミングを決めかねていた。
エネコが進化するのはもちろん嬉しい。
だけど、まだこのままでいて欲しいような気もするし……

友人が持っていたエネコロロを昔見せてもらったことがあるのだけれど、スリムでおだやかで、でも凛とした姿がとても素敵だった。
対するうちのエネコはまんまるで気まぐれで、さみしくなるとすぐすり寄ってくるところがとても愛らしい。



「ねえ、エネコはどうしたい?」

「みゃあ?」

「あなたは進化したい?」



ダイゴがリーグへ出かけているためエネコとふたりで戯れていたところに、私が質問を投げかける。
するとエネコは不思議そうに首をかしげた。

………………うん、かわいい。
エネコと過ごし始めてからというもの、私はすっかり親馬鹿になってしまったらしく、この子が愛しくて愛しくて仕方ない。

やっぱり、まだこのままでいいかなあ。
しばらくはエネコのままで。
いつか時がきたら月の石を使おう。
いつか、ね。



「よーし、気分転換にお散歩いこっか!」

「!!」



その言葉が嬉しかったのか、エネコはぴょんぴょんっと飛び跳ねたあと私の周りをぐるぐると回った。
ふふ、なんて自然に笑みがこぼれてしまう。

そして、私はいつもの帽子とバッグを準備して外に出た。
ダイゴが帰ってくる前には帰っておかないとうるさいから、それだけは気を付けないと……なんて思いながら。

行き先はトクサネの名物でもある海岸。
いつでも気持ちの良い風が吹いていて、絶好のお散歩コースだ。
ダイゴが不在の時は時々こうして外を歩くから、もうエネコもばっちり道を覚えたらしく、私を先導してくれた。



「みゃーあ!」

「…………ん?」



海岸について、エネコが何かに興味を示したかと思えば、視線の先には幼い男の子がいて。
緑の髪をなびかせながら黙々と走っていた。



「あっ、ちょっとまってエネコ!!」



さすが好奇心旺盛というか、なんというか…………エネコは緑の髪の男の子へと駆け寄っていってしまったので、それを慌てて追いかける。
男の子はというと急に飛び出してきたエネコにびっくりしたのか尻餅をついていた。



「いたたた…………」

「あ、あの、うちの子がごめんなさい…………大丈夫?」

「えっ、あ、えーと、はい……」



おそるおそる声をかけてみれば、彼はびくりと反応する。
知らない男の人はあまり得意ではないけれど、この子くらい幼ければ私でも臆せずに話せる気がした。

男の子のお腹の上でぴょんぴょんと飛び跳ねているエネコを抱きかかえて、彼に手を差し延べると、それを取って起き上がる。



「あ、あの、ありがとうございます」

「ううん、私がちゃんとこの子を見てなかったせいだから」

「元気な子なんですね」

「ふふ、そうでしょ」



もしかしたら、さみしがりやだから人と触れ合うのが好きなのかもしれない。



「えーと…………お姉さんのお名前はなんていうんですか?」

「私?ミサキっていうの」

「僕はミツルっていいます……ミサキさんは、もしかして、この辺に住んで……?」

「うん、最近引っ越してきてね」

「わ、そうなんですか…!」

「ミツルくんも?」

「いえ、僕は旅をしていて、最近トクサネに着いたんです」

「そうなんだ………あ、ちょっとエネコってば、こら、静かにしてて」



腕の中でじたばたと動くエネコに、一体どうしたのかと考える。
いつもはこんなことないのに、今日はとても活発だ。
それに、こころなしかミツルくんの方へ行きたがっている気がする。



「エネコってば、そんなにミツルくんのことが気に入ったの?」

「あ、もしかして、これが気になるのかな……」



そう言って彼が見せてくれたのは、ポケモンのたまごらしきものだった。
私もテレビで何度か目にしているけれど、実物を見るのは初めてで……

よく見るとミツルくんは他にもいくつかたまごを持っていた。



「みゃーあ!」

「あはは、やっぱりたまごが気になってたんだね」

「すごい、たまごがいっぱい……!」

「あ、僕、今ちょうど孵化しようと思ってたところだったので…………」

「触っても平気?」

「どうぞ。……えっと、気になるならミサキさんにひとつあげましょうか?」

「えっいいの?」

「お近付きの、しるしに」



にこり、微笑んでたまごを手渡してくれるミツルくんは、とても可愛らしかった。
幼くて、ふわふわしてて、私にも年の離れた弟がいたらこんな感じなのだろうか。

……あ、いや、そういえば私にもこの間弟ができたんだった。
残念ながら出産には立ち会うことができなかったけれど、そろそろお母さんたちも落ち着いた頃だろうから様子を見に行きたい。
そうだ、帰ったらダイゴに相談してみよう……もしかしたらエアームドで連れていってくれるかもしれないし。

そんなことを考えながら、私もにこりと笑顔を返した。



「ありがとう、大切に育てるから!」





(ふふ、生まれてくるのが楽しみ)

ミツルくんとポケモンのたまご



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