「さあ、着いたよ」 「着いたよ。じゃなくて、一体これはどういうことなのか説明してくれる?」 そびえ立つ洞窟の入口を前にして、私は腕を組んでいた。 誰がどう見ても、私は不機嫌だ。 それなのにダイゴはといえば、私が何を言いたいのか分からないとでもいうように首をかしげている。 「流星の滝だけど……」 「そんなの見ればわかるわよ!私が聞きたいのは場所じゃなくて!」 「懐かしいだろ?昔一緒に来たね」 「ああうん、ものすごく昔ね……ってそうじゃなくて、ちょっと待ってよ!話を聞きなさいー!」 にこにこと笑って、あいつは流星の滝のなかへと入っていく。 慌てて私も追いかけたけれど、ごつごつとした地面に足を取られて素早くは歩けなかった。 整備されているとはいえ、やっぱり洞窟は洞窟なのだ。 …………というか、普段と変わらない格好をしている私がうまく歩けるわけがないでしょう。 ダイゴはスーツでの採掘は慣れているのだろうけど、私は慣れていないし服を汚したくはないから細心の注意を払わなくてはならない。 それに靴だって、高さはそんなにないけれど多少はヒールがあるものだし、余計に歩きづらい。 一言でも、洞窟へ行くって言ってくれたら、それなりの格好してきたのに! なんでダイゴは言葉が足りないの! …………でも、うきうきしてるダイゴを見て石を採掘しに行きたいのだと気付かなかった私も私かもしれない。 昔からの癖だったのに、見抜けなかったのが悔しかった。 「見てミサキ、滝だよ」 「………………」 「あれ?お気に召さなかったかな」 「……ここは昔と変わらないね」 「うん、変わらず綺麗なままだ」 ダイゴが旅立つ前は、よく付き合わされたりしたっけ。 この流星の滝はもちろんだけど、石の洞窟とか、えんとつ山とか。 野生のポケモンに出くわせば、ダイゴが軽々と倒してくれたりして……… 親が連れて行ってくれないようなところも、ダイゴが連れて行ってくれたりして、あの頃は2人でお出かけするのが楽しかった。 …………あの頃は、ね。 今は……………嫌いだと思っている人とお出かけなんて、楽しいはずがないのに。 嬉しいはずがないのに。 再会した時なんて話すのも顔を見るのも嫌で逃げようとしたくせに、今は一緒にいることがそこまで嫌じゃないなんて、自分でもおかしいと思う。 私たちの間に何かがあったわけでもないのに、ね。 ……あったとしたら、婚約………かな。 私、このままいくと本当にダイゴと結婚しなくてはならない。 そんなの嫌なのに、絆されてしまいそうで、こわい。 「ここで採れる石は種類が豊富で興味深いよ」 ふふ、なんて笑って足元の石を手に取り眺めるダイゴは本当に楽しそうだった。 昔からそう。 石と向き合っているときはいつも楽しそうで。 まるで私の存在なんて忘れているかのように、あちこちの石に手を出して、にこにこと眺めたり削ったり。 そんなあいつを見ているのはわりと好きだった、なんて、たった今思い出したことだけれど。 「よ、っと………………見て、月の石だ!」 いつのまにか、どこからか取り出したつるはしで岩らしきものを砕いていたダイゴが、嬉しそうにひとつの石を持ち上げた。 黒々としていて、そこらへんに転がっている石ころとは違って、この石からはよく分からないけれどなにか力のようなものを感じる。 ダイゴのコレクションとして見せてもらったことはあるけれど、採れたてのものを見るのは初めてだった。 「嬉しそうね」 「ふふ、今日はこれが目当てだったからね。はい、ミサキにあげるよ」 「…………え?いいの?」 「もちろん」 「だ、だって、ダイゴが欲しかったんじゃないの?」 「いや、元々ミサキにあげるつもりだったよ。月の石はエネコに使うとエネコロロへと進化するんだ。君にぴったりだと思って」 「…………そうなんだ……」 ああもう、こんなにスーツ汚して……なんて小言を言ってやりたい気分だったのに、そんな気も失せてしまった。 だって、私のエネコにだなんて、そんな、わざわざ。 嬉しいけれど、なんでだろう? 胸が締め付けられるような、このなんともいえない気持ちは。 ドキドキでもなくて、ズキンとした痛みでもなくて…… 「使うも使わないも君次第だけれど、大切にしてもらえると嬉しいな」 「ありがとう……でも、こんなに尽くしてもらう理由なんてないのに」 「見返りを求めているわけじゃないんだからいいんだよ。僕が贈りたいと思ったから贈っただけさ」 ほらまた、ぎゅうって苦しくなった。 これはなに? もしかして、病気の前触れ? 「私、貰ってばかりだからまたお礼するわ」 「いいよお礼なんて」 「気が済まないの!」 「うーん…………じゃあ、しいていうなら、僕への好感度を上げてくれたら嬉しいかな?」 …………は? 好感度? 「そんなもの上げてどうするのよ」 「僕には重要なことなんだよ」 「ダイゴって意味が分からないことばかり言う……」 (やはりというべきか、この後もダイゴの気が済むまで採掘は続いた) その正体は、『きゅん』 ← → back |