あれからもう7年が経つ。

それは人の心を変えるには十分すぎる程の年月だった。
精神的なものだけではなく、もっと身体的にも私は変われたはず。(……なのに、元同級生に会う度に変わっていないと指摘されるのはどうして?)


しかし、いつだったか、チャンピオンになって帰ってくるとかいうバカらしい台詞を残して姿を消したあいつが、このカナズミに帰ってきたらしい。
……という話を聞いた。
というより、現在進行形で耳にしている。
目の前できゃあきゃあと騒ぐ女の子たちは……多分高校生くらいだろうか。
世間でミニスカートと呼ばれている子たちもそこかしこに見受けられた。

人間とは薄情なもので、長年会うことがないと、たとえそれまで十数年顔を会わせていたといっても記憶からは薄れていくものらしい。
だからもう、あいつのことなんて忘れてしまった。
どんな声だった?
身長はどれくらい?
あの、胡散臭いと思っていた笑顔は?
……どれにしても思いだそうとすれば、もやがかかってぼやけていく。

でも、それでいいんだ、あいつのことなんて。
もう知らない、大嫌いだもん。
私たちに関係なんて、もうこれっぽっちもないんだから!



「見て、ダイゴさまよ!」



きゃあああ、とひときわ声が大きくなる。
鼓膜を破るような黄色い声に耳を塞ぎたくなったけれど、とりあえず私は近くにあった喫茶店に入ることでそれを回避しようとした。



「いらっしゃいませ」



席についてメニューを広げる。
喫茶店だと思ったら、ファミリーレストランだったらしい。
ファミレスに1人で入るお嬢様って絵面的にどうなの、これ。

というかファミレスなんて初めてだわ!
注文の仕方はどこのお店でも変わらないよね?よね???

……でもその前にこの店はカードを使えるのか否か………



「あの、」

「はい?」

「こちらのカードは使えますか?」

「カード、ですか?申し訳ありません、当店でのお支払いは現金のみとなっておりまして…………」



その先の言葉は耳に入ってこなかった。
やはり慣れない場所には1人で入らない方がいいらしい。
いたたまれなくて苦笑いを浮かべた私は、すぐさま店を出る。
外では相変わらずの黄色い声が待っていた。
女の子たちがそこらで騒いでいるあたり、きっと彼はこの近くにいるのだろう。

なんだかものすごく泣きたくなってきた……
ああ、早く帰りたい。
帰って部屋に引きこもりたい。

あいつに、会いたくない。


いっそのこと全国を飛び回って逃げてしまおうか?



「やっと見つけた」

「…………!!」



とん、と肩に置かれた手に自然と視線がいく。
いくつか指輪をしているこの男性の手はもしかして、と思って後ろを振り向けば…………うんやっぱり。

こういうときばかり、嫌なことって実現するんだよね。

さ い あ く だ。





(目の前が真っ暗になりそうです)

帰ってきたあの人



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