目の前のダイゴは、とても信じられなさそうに私を見ていた。
そして、ぽつりぽつりと言葉を紡いでいく。



「マグカップって…………僕にって………………」

「それがなんだっていうの!」

「……だって、それ、本当なのかい?」

「こんなことで嘘ついてどうするのよ!」



私の方はもう逆ギレに近かった。
あいつの理不尽な態度にどうしようもなく腹が立つ。
ダイゴはダイゴでなぜか落ち着いたみたいだったけれど、こちらはそうはいかない。
やり場のないこの苛立ちは一体どうすればいいのだろうか。

ミクリもああ言ってたし、私だってダイゴに少しは喜んでもらえるかな……なんて思ってたけれど、大間違いだった。
むしろ喜んでもらえるどころか、なぜか私怒られてる!
絶対これおかしい!



「やっぱりダイゴなんて、大嫌い!」

「……っ、」

「怒ってるなら理由を言いなさいよ!こんなの理不尽だわ!」

「……わかった、わかったから」

「なにもわかってない!」



涙で霞む視界に、ぼんやりとダイゴの顔が映る。
あいつはとても苦しそうで、でも、なんでそんな顔をするのか理解できなかった。
だって苦しいのは、なにも分からずに怒られてた私の方でしょう?
それなのになんで私より辛そうなのよ……!



「……ごめん」

「謝ればいいっていう問題じゃ、」

「本当に悪かったと思ってる。だから、もう、嫌いだなんて言わないでくれ」

「…………」

「ミサキにそう言われると、堪えるんだ……」



絞り出すような声で、ダイゴは言った。
その声を聞いていると胸が締め付けられるようで、先程とは違った意味で辛くなってくる。

ダイゴのことを嫌いと思う度に苦しくなるのは、なんでだろう?
確かに、嫌いなはずなのに。



「…………私も、大人げなかった」

「……うん」

「逆ギレして、ごめんなさい」

「うん……僕もごめんね、ミサキ」

「……本当はね、ダイゴにエネコのお礼がしたかったの。だからミクリにプレゼント選ぶの手伝ってもらって、今日は、ただ、それだけ」

「なんだ、そういうことだったのか……そんな慣れないこと、しなくていいのに」

「し、失礼ね!私だってお礼くらいするから」

「ああ、うん、ごめん。そういうことじゃなくて」

「……どういうこと?」

「僕はあの時君が嬉しそうな顔をしてたから、それが見れただけで充分だったんだよ」

「でも、それじゃあ私の気がすまないの!」

「うん、ミサキの気持ちはすごく嬉しい。…………でも、頼むからあまり僕を不安にさせないで」



はあ、ため息をついて、あいつはぎゅうっと私を抱きしめた。
今の体勢が体勢なだけに、胸元にダイゴの顔が埋まるようにして密着する。
引き剥がそうともがいても、ますます擦り寄ってくるばかりで、どうにもならなかった。

……なんだろう、この子供みたいな男は。
それに、不安ってなに?
私が何かしたってこと?
ただ私がミクリと出掛けただけで、なんでこいつはこんなに弱ってるの?



「こ、今度こそセクハラで訴えるわよ!」

「ん……今日くらい許してよ」

「はあ?!ちょ、ちょっとー!」

「ふふ、ミサキはやわらかいね」

「っ、調子に乗るな!」

「あいたっ」



ぺしん、頭を思いきり叩けば、声を上げるダイゴ。
痛そうに顔をしかめているけれど、いい気味だ。

さっきの不穏な雰囲気とは打って変わって穏やかなものになったから、私は安心して一息ついた。
それに、いつのまにか私も落ち着いている。
さっきまであんなに苛立っていたのが嘘のようだった。



「ねえ、マグカップ見せて」

「……うん、ちょっと待ってて」



ようやく体が解放されて、私は紙袋を取りに戻る。
改めてダイゴの隣に腰掛けながら、包みを開いた。



「こっちの黒がダイゴの分で、こっちの白が私の分」

「えっ、もしかしてお揃い?」

「………………そうよ、悪い?」



こんな言い方しかできないなんて、私はつくづく可愛くない。
……なんて、分かっていても直せない。



「悪くないよ、ミサキからのプレゼントはなんでも嬉しい!」

「よ、喜びすぎじゃないの……子供みたい……」

「本当に嬉しいんだから仕方ないさ!」



ありがとう大切にするからね、なんて言ってとても幸せそうにマグカップを持つダイゴに、私はどう反応していいか分からなくて俯いた。
少しは喜んでもらえるかなとは思っていたけれど、まさかこんなに喜んでもらえるなんて思ってなかったから、すこし気恥ずかしい。

……でも、贈って良かったなあ、って。



「……私こそ、ありがとう」



ぽつり、呟いた言葉はダイゴへ届いただろうか。





(きっと届いていると、信じて)

僕を不安にさせないで



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