「やましいことがないなら答えられるよね?ミサキ」



有無を言わせないトーンで、ダイゴが私の瞳をじっと見る。
こちらも負けじと睨み返したものの、いつまでこの至近距離でのにらめっこが続くのだろうかとだんだん頭が痛くなってきた。

だいたい、どうして私がこんなに責められなきゃいけないのかが分からない。
だって私はただミクリとお買い物に行っただけで、やましいことなんてしてないもの。
というか、そもそもダイゴの言うやましいことってなに?
一体なにを疑っているの?



「買い物、してたの」

「……二人きりで?」

「そうよ」



雰囲気に気圧されて、正直に伝える。
ぴくり、あいつの顔が少し歪んだ気がした。



「なぜ、隠したのかな」

「か、隠してない!確かにいちいち言う必要なんてないと思ってたけど、そもそもダイゴだって誰と行くかなんて聞かなかったし……」

「……そんなこと……僕だって、できるなら聞きたかったさ!」

「そんなに聞きたかったなら聞けばよかったでしょ!」

「ついて来られたくないって言ってる相手にそんなこと聞けると思う?」

「いつだって自分の思うようにしてきたくせに、なんでそういうところだけ引くのよ!」

「じゃあ君は本当に聞かれてもよかった?僕には聞かれたくないことだったんじゃないの?ねえ、素直に答えてくれた?いじっぱりな君が、僕の質問にちゃんと答えてくれたっていうのかい?」



昔からあまり感情に流されるタイプではなかったはずなのに、今日のダイゴは珍しく心の底から苛立っているようだった。
そんな様子を見たのは初めてで、かける言葉に迷ってしまうけれど、でも私だって負けていられないから、ついつい選ぶ言葉がきついものになってしまう。
そんな私に返ってくるのはやはりいい言葉ではなくて、向こうが言えばこちらが言い返すの悪循環が止まらない。

……本当は、エネコをくれてありがとうって、伝えたかっただけなのに。
この間はそっけなくしか言えなかったから、改めてお礼を言いたかっただけなのに。
たったそれだけのことで、私たちはなんでこんなに揉めているの?

確かに、私は自分で言うのもなんだけどいじっぱりだし素直じゃない。
でも、これってそれ関係あるの?
だってダイゴが勝手に怒ってるだけじゃない!



「私は聞かれたからちゃんと行き先は答えたわ!」

「それだって渋々だっただろ」

「……そんな、こと、ない」

「図星じゃないか」

「だ、だからっ、なんでそんな気にするのよ!」

「気にならない方がおかしいよ!」



それは、一際大きな声だった。
びくりと私の体が震えて、ダイゴもそれに気付いたのかハッと息を呑んだ。



「あ…………ご、ごめん」

「……なんで………」

「……え?」



わからない。
私にはなんでダイゴが怒っているのかわからない。
だって私が誰と出掛けたって私の自由でしょう?
あいつに制限される理由もないし、第一、一切関係ない。

もう、わからないよ…………!



「なんでそんなに怒ってるのよ!わからない!ダイゴのばか!!ばかばかばか!!!」

「えっ、ちょっと、待ってミサキ」

「ばかばかばかばか!!!」



ぽかすかとダイゴの胸を叩き続ける私に面をくらったかのように、あいつはあたふたと私の両腕を掴んだ。
じわり、視界が歪む。
振りほどこうとしてもやっぱり力では勝てなくて、唇をかんだ。



「ただ、ダイゴにマグカップ買ってきただけなのに、なんでこんなに怒られなくちゃならないのかわからない……!」

「…………え、今、なんて、」

「だから!マグカップ!買ってきたの!」





(そう言ったらあいつはぽかんとした顔で私を見ていた)

疑いの眼差し



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