「おや、出かけるの?」

「あー、うん、まあね」



とある日の昼下がり。
私は野暮用があって、いそいそと身支度をしていた。
エネコをボールの中にしまって、お気に入りのバッグも用意して。
あとは帽子を被るだけ、というところでダイゴに話しかけられる。

別にやましいことをしているわけでもないのに、ぎくりと体が強ばった。



「ふうん………………どこに?」

「ちょっとミナモまで……」

「それなら僕も行くよ」

「こ、来なくていいから!」

「………え?」

「あ、ほら、せっかくの休日なんだし、ゆっくりしていて欲しいなって」

「せっかくの休日だからこそ、ミサキと過ごしたいのに」

「そういう冗談はいいから、大人しくしていてよ」

「ふむ……今日はいつもと様子が違うけれど、まさか僕に隠し事してるなんてことないよね?」

「ええっ?!」



普段なら一人で出かけてもここまで食い下がってくることはないのに、今日のダイゴはやけにしつこく詮索してくる。
私はそんなにおかしな行動をしていただろうか?
全く身に覚えがないのだけれど、あいつの目はとても疑わしいとでも言いたそうにしていた。
その視線を浴びながら、私はこの場をどう切り抜けようかと必死で考えている。
笑顔で誤魔化そうとしても口元が引き攣ってしまった。

でも、今はまだバレるわけにはいかないの。
だからどうにかして外に出なくては。



「君は嘘が下手なんだから、早く白状した方が身の為だよ」

「だから、何もないってば。いつも通りでしょう?」

「……本当に?」

「本当よ!」

「…………」

「うっ………疑いすぎだわ…………」

「……分かった、行っておいで」



しぶしぶだけれどなんとか納得してくれたようで、あいつは私の手から帽子を奪い取って被せてくれた。
遅くならないうちに帰ってくるんだよ、なんて言ってぽんぽんと私の頭を軽く叩く。
私はほっと安堵して、行ってきますとだけ返した。

そして、向かうはミナモシティ。

彼との約束の場所まで。





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あれから、私がミナモに着いたのは約束の時間をほんの少し過ぎた頃のことだった。
船着き場から急いで走ってきたものだから、呼吸が乱れて息苦しい。

でも、ミクリが待っているんだもの。
忙しいだろうに、私の為にわざわざ予定を空けてくれたのだから、待たせるなんてことがあってはならない。
この間連絡した時は快諾してくれたものの、彼が多忙だという事はホウエン地方に住む者なら誰でも知っている。
そんな彼に付き合ってもらうのは少し心苦しいけれど…………誘える男友達が彼しかいなかったのだから仕方がない。

二人きりでわざわざ約束してまで会うなんて滅多にないことだけれど、たまにはいいかもしれないな、とも思う。
まあ、こんなことをうっかりダイゴの前で発言しようものなら、叱られるかもしれないけれど。

私はミクリの姿を確認すると、笑顔で声を掛けた。



「おまたせ!」

「やあ、ミサキ」



綺麗な顔で彼が微笑む。
変装用のサングラス越しでもかなりの美形ということが窺えた。
というより、たとえマントで姿を隠していても、変装をしていたとしても、ミクリであることはほとんどバレバレだ。
私の周りには、どうしてこう外見が整っている人が多いのだろうか?



「待たせてごめんなさい。ダイゴに怪しまれて誤魔化していたら、家を出るのが予定より遅くなってしまって……」

「はは、あいつは聡い男だからね」



まったくだ。
変なところで勘がいいから困ってしまう。



「この事、本当に秘密にしていていいのかい?」

「いいのよ」

「……そうか、君がそう言うなら反対はしないけれど」

「さあ、早く行きましょう」



ミクリが気にする必要は全くない。
やましい事をしているわけでもないし、第一、私とミクリはただの友人だもの。
ダイゴに口出しされる謂れはない。

ぐいっとミクリの腕を引く。
そうして私達は共に歩き出した。





(あいつには、まだ知られたくないの)

ひみつのおでかけ



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