「おいで、エネコ」

「みゃあ?」



あいつと同棲を始めてから、もう一週間が経った。
時間が過ぎていくのはあっという間で、少しずつトクサネでの暮らしにも順応し始めている。
朝起きてすぐ隣にダイゴがいるという耐えがたい事実にも、不本意だけれど慣れつつあった。
もちろん、嫌なことには変わりないけれど。

とことこ、私の元へ近付いてきたエネコを抱き上げる。
この子と暮らし始めてまだ日が浅いものの、なかなか愛想があって可愛らしい子だった。
すこし見えっ張りだと感じるところもあるけれど、さみしがりやなところもあって。
性別は違うけれどミサキにそっくりだね、なんてダイゴは笑っていた。
……それってあまりにも失礼な話じゃない?



「みゃーお」

「んー?なあに?」

「にぃ?」



私が頭を傾げると、エネコも真似をして頭を傾げる。
その愛らしい仕草につい口元が緩んだ。
懐きにくいと聞いたけれど、この子はわりと頻繁にすり寄ってきてくれるので、本当にそうなのか疑わしい。
………もしかして、さみしがりやという性格も関係しているのかも?



「ねえ、あいつそろそろ帰ってくるかな?」



……というのも、今日はダイゴがリーグへ出かけているからだ。
もう四時になるし、いつもより早めに帰れるって言っていたからそろそろだとは思うのだけど。

別に寂しいわけじゃない。
ただ、とてつもなく暇なだけで。
あいつだって一応話し相手にはなるし、退屈しのぎには丁度いいだけ。
…………それだけ。

私は相変わらず首を傾げているエネコを連れて、洗濯物を取り込むべく外へ出た。
干してあるのは下着とか、寝間着とか、タオルとか、そういった簡単なものばかりで、それらを手際よくカゴに入れていく。
ダイゴが洞窟に行く度に豪快に汚してくるスーツなどは素材が高級品のためすべてクリーニングだ。



「みゃあ」

「あ、こら、だーめ」



先程まで大人しく洗濯物の匂いを嗅いでいたエネコがカゴの中に勢いよくダイブしたので、慌てて抱き上げる。
香りが気に入ったのは分かるけれど、そんなことをしたらせっかくの洗濯物がシワになってしまうし、汚れてしまうので困る。
不満そうに鳴くエネコの頭を撫でながら、私はあと少しだからいいこにしていてね、と声をかけた。

そんな時、足元に別の影が伸びる。
背後に気配を感じて振り返れば、待ちわびていた彼がいた。



「ただいま」

「おかえりなさい。今日は帰りに洞窟寄ってこなかったのね」

「まあね。ミサキが寂しがっているだろうと思って真っ直ぐ帰ってきたよ」

「寝言は寝て言え」

「はは、口が悪いなあ」



罵倒されているというのに、ダイゴはにこにこと笑っている。
それがなんだか悔しくて、きつく睨みつけたけれど、たいして効いていないようだった。

…………仕方ないじゃない。
苛立つと口が悪くなるのは昔からの癖だもの。
それなりの家で育ってきた令嬢らしからぬけれど、冗談ばかり言うダイゴが悪いんだわ。

心の中で悪態を吐きつつ、最後のバスタオルを取り込み終わると、私はカゴを持つ為に手を伸ばした。
重くはないのだけれど、ダイゴが持つと言うので大人しくお言葉に甘えて、二人肩を並べて家の中へと入っていく。



「これ畳んでおこうか」

「いい。私がやるから置いておいて」

「どうして?早く帰った時くらい手伝うよ」

「それは駄目なの!」

「……??…………あ、そうか。うん、悪かった」



すこし思案して、どうやら脳内で答えに辿りついたらしく、大人しく引いてくれたダイゴに安堵した。
………だって、私の洗濯物ももちろんあるのに男性になんて任せられないもの。
私にだって人並みに羞恥心がある。
恋人でも旦那でもない、今はまだ赤の他人でしかないダイゴに下着なんて見せられるわけがない。



「それなら、今夜の夕食は僕が作ろう」

「え、作れるの?」

「僕を誰だと思っているのさ。それに、旅に出ていた間は基本自炊だったからね」

「…………ふーん」

「君には敵わないだろうけれど、それなりのものは作れるから安心して」

「じゃあ、私は向こうで畳んでくるから料理はお願いね」

「ああ、任せて」



さて、何にしようか?……なんて言いつつにこやかにエプロンを手に持つダイゴをよそに、私は洗濯物が入ったカゴを持って、その場を離れた。

……なんだか、この会話もまるで夫婦みたいで、くすぐったい。





(認めたくない、そんなこと)

好感度アップ大作戦その3、始動



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