『――――――早く彼女を捕まえておかないと、後悔するよ』



先程ミクリから言われた言葉が頭の中をぐるぐると巡る。

そんなの言われなくても分かってる。
痛いくらい分かっているさ。
………………だけど。
認めて貰えるようにあれだけ努力をしているというのに、なかなか上手くいかないのだからどうしようもない。
昔から出来る限りのアピールはしてきたつもりだし、今だってこんなに積極的に迫っているのに、ミサキは全く僕になびかない。
それどころか、さっきの言葉………「ミクリとだったら幸せになれそうなのになあ」だなんて。
盗み聞きするつもりはなかったけれど、タイミング悪く聞こえてしまったものは仕方が無い。

……酷い話だと思わないかい?

僕が彼女にとって一番近い存在であるはずなのに。
どうして、そんなに僕が嫌?
そんなに7年前の事を怒っているのか?
僕はミサキの事を忘れたことなど一時も無い。
いつだって君の事を想っていたというのに。

………………なんて、本人にそんな事を言ったところで信じてもらえるはずがないけれど。



「…………」

「…………」



ミクリが去ってから、僕たちはどちらも言葉を発さずひたすら黙っていた。
なにか話題をと探したけれど、やはり少し気まずさがあって口を閉ざす。

ああもう、こんな雰囲気じゃ駄目だっていうのに。
話したい事ならたくさんあるんだ。
離れていた間、ずっとずっと我慢していたのだから。
あと、遅くなってごめんって、もう一度きちんと謝りたい。

……それなのに、僕は未だにタイミングを掴めないでいた。



「ミサキ」

「ダイゴ」



意を決して口を開いたところで彼女の言葉と重なる。
君から話していいよ、と僕は促した。



「……たいしたことではないのだけれど、さっき遅かったからどうしたのかなと思って」

「ああ、その事なら改めて謝るよ。ごめん」

「連絡くらいくれたらよかったのに」

「……そうだね、急いでいて失念していた」

「まったく…」



拗ねたように口を尖らせる彼女がとても愛らしくて魅入ってしまった。
途端に、何見てるのよなんて咎められてしまったけれど、そんなつれないところも好きだ。
本当は甘えたがりのくせに常に強がっているところや、とことん押しに弱いところも、たまらなく愛おしい。



「そうだ、これお詫びに」



さっと取り出したのはピンクのバラとかすみ草がベースとなった花束。
ずっと後ろ手で持っていたのだけれど、あまり隠しきれていなくて、サプライズにもならなかった。



「どういう風の吹き回し?」

「君は昔から、食べ物やアクセサリーより花の方が好きだから」

「…………覚えていたの?」

「もちろん」



ミサキが花束を軽く抱きしめるのを見て、贈ってよかったと安堵した。
どうやら僕のチョイスは合っていたらしい。
幸せそうな表情…………僕には滅多に見せないような愛らしい笑顔で、香りを楽しんでいた。

でも花束はあくまで遅くなった事へのお詫びで、本当に渡したいものは別にある。
これを渡したらミサキはどんな反応をするだろうか。
……もっともっと、喜ぶ顔が見たい。
あわよくば僕のことを見直してくれたら、なんて打算も少しあるけれど、君の事だからきっと難しいんだろうね。



「わ、私はものじゃ釣られないんだから」



嘘つき。
そんな嬉しそうな顔をしているくせに。
ミサキが喜ぶと僕も嬉しいよ。



「ふふ、あとこれ。こっちはプレゼント」

「え?……モンスターボール?」

「だしてごらん」

「…………」



ぽんっ、ミサキがボールを投げると同時くらいに、小さく「みゃあ」なんていう鳴き声が聞こえてくる。
姿を現したその子は主人が分かるのか、真っ直ぐに彼女を見つめていた。
ゆらゆらとしっぽが動いて、見た目も鳴き声も愛らしく、ポケモン初心者にはうってつけの子だ。
女性にも大人気だし、なにより可愛いものが好きなミサキの事だからきっと気に入ってくれるだろう。

…………ただ、一般的には気まぐれで懐くまでが大変だと言われているのが難点ではあるんだよなあ……
まあそんなところもミサキにそっくりか。



「この子はエネコ。君にぴったりだと思ってね」

「え、え、まさか」

「捕まえに116番道路まで行ったら、思ったより時間がかかってしまった。エアームドに飛ばしてもらったけれど」

「この為に……そんな遠くまで行ったの……」

「明日から僕はチャンピオン業に戻らなくてはならないし、デボンにもそろそろ顔を出さなくてはならない。そうなれば日中留守にする事が多くなるからね。この子がいたら寂しくないだろ?」

「……うん、ありがとう」

「どういたしまして」



やけに素直に受け取ったかと思えば、ミサキは嬉しそうにエネコに駆け寄って頭を撫でた。
どうやら上手くやっていけそうだ。



「ダイゴにしては珍しいのね、昔からしつこいくらいはがねタイプが好きとうるさいのに」

「うーん、確かにせっかくプレゼントするのなら僕の好きなポケモンも良いと思ったけれど、君の好みの事を考えたら悩んでしまってね」

「構わず押し付けてくると思った」

「ええっ?まあ否定はしないけれど。そうだ、今度はがねタイプのポケモンもプレゼントしよう!はがねタイプは最高だ。ゴツゴツとしたフォルムにひんやりした感触……それに」

「はいはい、もういいから」

「………………」



ミサキは相変わらず僕に冷たい。





(けれど、その表情はとても柔らかかった)

好感度アップ大作戦その2



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