「……というわけで、とりあえず分担を決めようか」

「なにがというわけで、なの」



あれから。
私はこの人に連れられて、リビングにてアフタヌーンティーを味わっていた。
アフタヌーンとはいったものの、辺りはすでに陽が傾きつつある。

ひとくち、ダイゴお手製のハーブティーを口に含むと広がるいい香りと独特の味わい。
昔から器用で、彼が入れたものはなんでも美味しかったけれど、また腕を上げたと感じてしまった。

引っ越し初日だというのに荷ほどきもせずこうしてゆっくりできるのは、使用人達が事前に運び入れ準備をしてくれていたから。
お気に入りのクローゼットもドレッサーもちゃんと用意してあって、急な事だったのに完璧にこなしてくれたみんなは本当に優秀だ。



「これから共同生活をしていくにあたって、家事の分担を予め決めておいた方が無難だからね」

「それはそうだけど、その前にベッドは?」

「…………ああ、まだ諦めてなかったんだ」

「当たり前でしょ!」

「うーん、そうだなあ……ここはミサキが譲歩してくれると嬉しいんだけど…」



とても悩ましそうな顔をして彼が言う。
でも、私だって譲れないものは譲れないのだ。



「同室で寝ることを許した時点で充分譲歩してると思うんだけど?」

「ならもっと譲歩してほしい」

「無理です。だいたい、結婚前の男女がどうのこうのって言ってた7年前のあの紳士的な思想はどこに置いてきたのよ!」

「どこにって、今でも紳士的な対応を心掛けいるけれど。それに僕は君さえよければすぐにでも籍を入れたいと思っているし、そうしたら結婚前だからとか関係なくなるね」

「なっ……」



だから、どうしてそうやって好きでもない女と軽々しく結婚できるの!?

昔はもっとそういうことに対して気を遣う人だった。
私がデートに誘われれば、成人するまでは異性との不用意な接触は避けた方がいいとか、結婚相手とだけ親しくするべきだとか、他にもいろいろと都合のいいことばかり言って、私の意思は関係なく勝手に断ってきたくせに。
たまに招待されるパーティーのダンスだって、君はあまり異性が得意ではないから僕が相手になってあげるよとかなんとか適当な事を言って、いつもダイゴが傍にいたし。
昔から過度な接触を避けるよう言ってきたのはあいつ自身だった。
それって本当に好きな人ができるまでは誠実に生きた方がいいってことじゃなかったの?

今回の事だって、私はダイゴのことなんて好きじゃないんだから一緒に寝る理由なんてないと思うんだけど!



「もういい加減折れてよ…!」

「僕はいくつも理由を挙げたんだし、それでも納得出来ないならミサキも譲れない理由を教えてほしいな」

「……そんなの、決まってるじゃない。どう考えたっておかしいわ。そもそも、貴方に羞恥心は無いの?」

「君となら願ってもない事だね」

「それに、まだ未婚なのにこういうのって褒められたことではないと思う」

「じゃあ今すぐ結婚しよう」

「くっ………2人で寝たら、もしかしたら落ちるかも」

「ベッドの大きさなら見ただろ?充分な程スペースはあるよ」

「じゃあ、さっきは何もしないって言ったけど、そんなの信じられないわ」

「大丈夫、何があっても責任はきちんと取るから」

「ねえ必死すぎでしょ!!」



どうしてそこまでしつこいの!
最早こわいよ!



「重要な理由なんてひとつも無いじゃないか。それならミサキが諦めるしかないよね」



にこり。
それはとても威圧感のある笑顔だった。
返事をするのも億劫になってきて、もうどうにでもなれと全てを諦めて渋々首を縦に振る。

もう、いい。
自分の身は自分で守る。

本当はダイゴの事を本気で信じていなかったわけではないし、それによく考えたらあいつだって私なんかに手を出さなくたって、他にも言い寄ってくる可愛い女の子はたくさんいるだろうし。
ダイゴはルックスだけは良いから、よりどりみどりだと思う。
心底腹が立つけれど。



「じゃあ後は家事分担だけど…………もう時間も時間だし、後は夕飯を食べながら決めようか。冷蔵庫には何もないから、とりあえず今夜は外で食べて、帰りに食材を買ってこよう」

「……わかった」

「ほら、いつまでも不貞腐れていないで行くよ」

「…………不貞腐れてなんて、いないもの」





(結局、折れるのはいつも私の方)

いつだって私の負け



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