とても嫌々だったけれど、受け入れざるを得なかったダイゴとの同棲生活。
それが今日から始まろうとしている。

昨夜、逃げ出したりしないよう自分にひたすら言い聞かせながら眠りについて、朝はとても憂鬱な気持ちで身支度をした。
もう2度と両親に会えなくなるというわけではないのに、心がとてもとても重くて。
だけど、そんな私の暗い顔とは反対に、あいつはとても清々しいきらきらとした表情をしていて、思わずその顔をまた平手打ちしてやろうかと思った。

昔から変わっていない、あの胡散臭い笑顔。
見れば見るほど、ぼやけていた思い出が鮮明になっていく。
でもやっぱり7年間といえば変わっているところもあるわけで。
そんな一面を知る度に、胸が苦しい。
どうしてこんなに不安になるのだろう?
相手はあの日を迎えるまでずっと一緒にいたあいつなのに。
全く知らない相手より、まだマシなはずなのに。

『ダイゴくんのことを愛する努力をしなくちゃ』

ふとお母さんの言葉を思い出す。
………私が、ダイゴのことを愛する?
こうなってしまった以上、少しくらいの努力はしなくてはならないけれど、でも、本当にそんなことが私にできる?

だってほら。
また、試練が。



「しんっっっじられない!!!!!」



それはトクサネシティでのことだった。
先ほど新居に着いて、不便がないようにと部屋の案内をしてもらっていたところ。
そこは広くなく、狭くもなく、二人だけで暮らすにはちょうどいいであろう一般的な大きさの一戸建てだった。
今までは社長令嬢というだけあってそれなりの家でそれなりの生活をしてきたけれど、これからは………というか、ちゃんと結婚するまでは社会勉強だと思って行き過ぎた贅沢をしないよう言われている。
今後は家事も自分達でやることになるので、それなら広すぎない方がありがたい。

……そう、相手に不満はあるものの、土地や家に不満があるわけではないのだ。

ただ、信じられないくらいこいつにデリカシーがないことがわかっただけで!!



「昨日も聞いたね、その言葉」

「これどういうことか説明してくれる?」

「見ての通り、かな?」

「納得いきません!」



リビング、浴室、お手洗いなど、順に案内してもらって、最後に残ったのは寝室だった。
どんなレイアウトかな、なんてちょっとだけドキドキしながらダイゴが扉を開くのを待つ。
そうしたら、待っていたのはまさかの同室という事実で。
しかも置いてあるのは大きなベッドがひとつ。



「おかしいでしょ!?」

「そうかな」

「どう考えてもそうだから!!」



のんきに返答をする彼に軽くキレながら肯定する。

どうして同室?!
それに一緒に寝る必要性がどこにある?!



「とにかく、今すぐもう1つ寝室を用意して」

「まあまあ、落ち着こう。こうして傍にいる時間を設けて、夫婦の仲を深めるのもいいことだと思うよ」

「夫婦になった覚えはないわ!」

「っ、あ、ごめんごめん、僕が悪かったってば」



あまりにも腹立たしかったので、ワイシャツの首元を掴んでやった。
始終にこやかだったけれど、力を込め続けたらその顔が微かに歪んだ気がした。



「部屋割りもおかしいけどベッドの数もおかしいでしょう」

「これにはきちんと理由があるんだ。さっきのことももちろんだけど、ほら、この部屋には小さなものを2つ置くより大きなものを1つ置いた方がスペースをより有効に使えると思って」

「どうせならもっとマシな冗談にして」 

「大真面目なのに……それと、家庭内別居を避ける為でもあるんだよ」

「家庭内別居?」

「この状況で部屋を1つ与えたら引きこもりそうだからね。前科もあるし」

「うっ……」



悔しいけれど、反論ができなかった。
なにか悲しいことやつらいことや不満なことがあると閉じこもるのは、昔からの癖だからだ。
用意周到というかなんというか。
次から次へと言い訳を披露するダイゴは、一歩も譲る気がないらしい。
そもそも、昔からこいつはこうと決めたら意地でもそのまま通す奴だった。



「もういい。ものすごく不本意だけど、百歩、いや千歩譲って同室は許すとしても、ベッドだけはどうにかして」

「そんなに気に入らないかな」

「あたりまえでしょ!男女なんだから!」

「よかった。僕のこと、ちゃんと異性として意識してくれてるんだね」

「はあ?!何わけのわからないことを……」

「大丈夫、すぐ慣れる」

「そういう問題じゃなくてね?!」

「心配しなくても初日から手を出すなんてことしないし、そもそも僕がそんなに節操ない人間に見えるかい?」

「私のファーストキスを軽々しく奪っておいてよく言うわ!」

「その事ならきちんと責任を取って、必ず君を幸せにするよ」

「だから、そういう問題じゃなーい!!」



いつまでこの押し問答を続けていればいいのだろうかと頭が痛くなってきたところで、ダイゴの手が私の肩へ伸びる。
やんわりと、寝室の外へ導かれた。



「こうしていても話は進まないから、ひとまず落ち着こうか」

「誰のせいよ!」

「ほら、ミサキも疲れているだろうし、お茶でも飲んでゆっくりしよう」

「はあ?」

「さ、あっちだよ」

「ちょ、ちょっとー!」



うまいことはぐらかされたような気がするのは、彼が私よりも一枚上手だからだろうか。





(こんなことになるなら、絶対に来なかった!)

いざ、新居へ



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