「ミサキ!」



そして次の日の夜。
ツワブキ家の用意した広い広いパーティー会場に、私はしぶしぶと姿を現した。
本当は来たくなかったのだけれど、あの後わざわざドレスまで贈られてしまったのだから仕方ない。
さすがにここまでされたら断るに断れないというか……
そもそも行かなかったら、それはそれで面倒なことになるだろうから、初めから私に選択肢などないのだ。



「会いたかった」

「昨日も会ったでしょう」



全ての女の子を虜にしてしまいそうなくらい輝いた笑顔でこちらへ駆け寄ってくるダイゴに、私は呆れながらも返事をした。



「はは、そうだけど。それよりよく似合ってるよ、そのドレス」

「………それはどうも」

「さすが僕が選んだだけあるね。ミサキの白い肌に良く映えて綺麗だ」



――――――思わず噛み付きたくなる。



「っ、!」



不穏な言葉を耳元で囁かれた私は、いつの間にか腰に回されていた手にも抵抗することができず、硬直した。

噛む……?
えっ、噛む!?!?
なにを言っているのあなた?!



「だ、だめ!!!」

「せっかくおいしそうな肌なのに」

「人の肌は噛みつくものじゃありません!!!」

「つれないなあ」



そう言って、すねたような顔をする彼。
なんなの、この大人の姿をした子供は……!!!



「私で遊ばないで!」

「ふふ、楽しいからやめられないかも」

「そんなに暇なら、あっちにいる私よりも愛想のよくて可愛い女の子たちに話しかけたらいいじゃない。よっぽど楽しいと思うわ!」

「それじゃあ意味がない」

「………どうしてよ」

「さっき会いたかったって言ったの、もう忘れた?僕は君だからこそ話したいんだよ」



……なにそれ、馬鹿じゃないの。
そんな甘いことを言えば私が落ちるとでも思っているの?

真っ直ぐに見つめてくる彼の瞳に耐えられなくなった私はうつむいた。
どうしてか分からないけれど、とてつもなく悔しい。



「お、耳が赤い。照れてる?」

「うるさいわね!」

「相変わらず照れ屋だね」

「黙ってよ!」



どうしてこんなに私を惑わせるのだろうか。
翻弄される私も私だけれど、必要以上に構ってくるあいつもあいつだ。



「さ、おしゃべりもこの辺にしてステージへ行こうか」

「…………ステージ?」

「そう。おいで」



腰を抱かれて強引に連れていかれる。
いつのまにやら会場の明かりが薄暗くなっていて、私達が通る場所だけがライトで照らされていた。
周囲もこちらに集中していて、なんだか、とても居心地が悪い。
いえ、居心地が悪い……というより、嫌な予感がすると言った方が正しいのかもしれない。
ダイゴだけならまだしも、どうして私まで??
パーティーの主旨を考えれば、明らかに主役はダイゴだけのはずなのにどうして???

戸惑いが隠せずにダイゴの方へ視線を送れば、彼はくすりと笑って「大丈夫。笑っていて」と小さく返答を寄越した。

………………大丈夫??
どこが??
この状況のどこが大丈夫ですって???
私は別に緊張しているとか、そういうことに対しての返事が欲しかったわけじゃなくて、事情も説明されずにダイゴの横を歩かされているこの状況についての弁明が欲しかったんだけど!!?

…………そして、たどり着いた先で待っていたのは。

まるで記者会見のような。



「みなさん、本日はお忙しい中このような場にお集まりいただき誠にありがとうございます。そして、僕ツワブキダイゴと彼女サイトウミサキは、この度めでたく婚約致しましたことをこの場をお借りして御報告申し上げます」



静かだったこの場所に拍手が沸き起こる。
私はたくさんのお客様の手前、なんのリアクションも取ることができず、ただ引きつった笑顔を浮かべていた。





(一体どういうことですか、これは)

パーティーの夜



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