なんでなんでなんで!
どうしてこうなった…!!!



「………ということで、僕たちはひとまず婚約期間を設けるという方向で話をまとめました。結婚は、お互いの愛が確かなものになってからにします」



あの後、私はダイゴに連れられてリビングへと戻った。
「取り乱してすみませんでした」という、お詫びの言葉を忘れずに………しかし、リビングへ戻ってからの彼の言葉には、耳を疑うものがあった。
だって、冒頭の台詞!
私は断じて婚約するなんて言ってないし、それに、話がまとまったわけでもない。
それなのに、話は勝手に進んでいく。



「よく了承してくれたね、ミサキちゃん。ありがとう」

「い、いえ、私はっ」

「ミサキ?」



言葉を遮られたかと思えば、にこり、ダイゴからの笑顔が向けられる。
それはとてつもなく威圧感のあるもので、私は大人しく口を閉じた。

あ、あんな恐ろしい笑顔初めて見た…!



「どうしたんだい?」

「な、なんでもないです…」

「???」



頭上にクエスチョンマークを浮かべるおじさんをよそに、私は苦笑いを浮かべた。
私はそんなこと了承してませんと言おうと思ったのに、どうやらダイゴが近くにいる以上、訂正は無理みたいだ。
……ううん、むしろ近くにいなかったとしても、後でこっぴどく怒られそう。
それだけは嫌…どうなるか怖い…!

でもこれは私の人生がかかっているわけで、ここで諦めたらめでたく彼と結婚…なんてことに……
こうなったら、私が諦めればいいの?
大人しくダイゴと結婚すればいいの?

ちらり、彼の方を盗み見る。
昔からすっきりと整った顔立ちだけれど、やけに大人びて見えた。
7年という月日は人間をここまで変えるのだろうか。



「では、わしらはこれで失礼するよ」

「ええ、明日のパーティー楽しみにしてますね」



私の両親がダイゴの両親を見送って、それを確認した後、私は一つ大きな溜め息をつく。
なんていうか、色々なことが短時間で起こりすぎて目眩がしそうだった。



「お母さんお父さん……本気で嫁がせるつもりなの?」

「あら、ダイゴくんのどこが不満なの?」

「そういう問題じゃなくて!」



確かに、昔は仲が良かった。
私もあの頃はダイゴとずっと一緒にいられると思っていた。
でも、最初に私から離れて行ったのはあいつの方だもの。
一切連絡を寄越さないで、7年も音信不通で。
それなのに今更のこのこと帰ってきて、どういうことよ。
私と結婚ですって?
そんな急すぎる話、受けられるはずがない。
だって結婚するってことは、あいつと一生を共にするってことで、そうしたらデボンの世継ぎだって必要になってくるし、もちろん私だって子供は欲しいし…………
私だってもうとっくに成人した身だ。
子供がどうやって生まれてくるかくらい分かってる。
問題は、その行為をダイゴと出来るかどうか……

いやいやいや無理無理無理!!!!
そんなの、考えただけでもゾッとする!!!



「お、お母さ……っ」



涙目でお母さんにすがると、まるで何もかも分かっているかのように、私の頭を優しく撫でてくれた。



「不安なのは分かるけれど、そんなに難しく考えないで。身構えてはだめよ」

「だって、私、まだ…」

「大丈夫。ダイゴくんはあなたをたくさん愛してくれる。とびきり幸せにしてくれる。問題は、あなたが彼の愛を受け止めきれるかどうかよ」

「あ…い……?」

「そう。結婚するんだから、ダイゴくんのことを愛する努力をしなくちゃ」



私が、あいつを愛す……?
そんなこと出来るのだろうか。
だって7年離れていたとはいえ、私達は幼なじみだもの。
今更恋愛感情なんて生まれるはずがないのに………それでもお母さんは彼を愛せというの?



「たとえ、私がダイゴを愛したとしても、あいつは私なんて眼中にないわ」

「……あらあら。好きだと言われていないの?」

「プロポーズ的なものはされた、けど……」

「もう、一番肝心なところなのにねえ?ふふ、彼もまだまだだわ」

「…………」

「大丈夫。きっと分かる時がくる」



そっと頬を撫でられる。
気持ちがよくて、私はゆっくりと目を閉じた。

明日のパーティーで、またあいつと顔をあわせなくてはならない。
それに、明後日から同棲も始まるそうだから、これからはずっと一緒だ。
そう思うと気が重い………家を出る準備もしなくてはならないし、なにより新生活に不安ばかりが募る。



「愛し、愛されて、幸せな家庭を築いてね」



……お母さん、それは無理かもしれない。





(でも努力はしなくちゃ、なんだよね)

仕方なく婚約します



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