ダイゴさんから、色違いのダンバルを見せてあげるから家においでよ!…そう言われて、今日がその約束の日。
一体どれだけこの日を楽しみにしていたか。
毎日のようにリーグに通ってはいるけれど、私はいつもダイゴさんに負けてばかりで。
だから今日は初めてオフのダイゴさんに会える!と心待ちにしていた。

……いい感じの夕暮れに、好きな人の家にふたりきり。
ソファに並んで、テレビ見て。
こんな絶好のチャンス、滅多に巡ってこない。

だから、私は勇気を出して伝えた。
タイミングを見計らって、ずっと好きでしたって。



「僕も君のことは好きだけれど、でもまだ早すぎるんじゃないかな」



いつもの余裕そうな表情を崩さずに、ダイゴさんは言った。
彼はいつも難しいことを言っては私を悩ませる。

……早すぎるって、どういうこと?



「ダイゴさん、そんなこと言ってるけど本当は好きじゃないんでしょ……」

「そんなことないよ。なまえちゃんのことは好きだって思ってる」

「なら、どうして拒否するんですか?」

「どうしてって…………君はまだ若いんだから、僕みたいな男に捕まってはならないよ」



それって結局、体よく断ろうとしてるんじゃないですか?

思わず出そうになったその言葉を飲み込む。



「私はダイゴさんがいいんです!」

「……じゃあ聞くけど、」



少し躊躇う素振りを見せて、けれどダイゴさんは確実に私との距離をつめた。
どんどん近付いてくる彼を回避しようと、私も少しずつ体を反らす。
そうして攻防戦の果てに、私は逃げ道をなくした。

これって、もしかして、もしかしなくても、私押し倒された…?

本当に逃げたいなら体を反らすのではなくて立ってしまえばよかったのに、どうしてそうしなかったのだろう。
……たとえ順序が違っても、ダイゴさんが相手ならいいと、心の底で思っているのかもしれない。
じっと見下ろしてくる彼は、今まで見たことがないような男の人の瞳をしていた。



「君の好きは、こういうことをしたいと思える好きなの?」

「っ、あ、」



ぞわり、体が震えあがる。
腰のラインを撫でられたのだと理解するまでに数秒かかった。
こんなことくらいで声をあげたのは心底恥ずかしかったけれど、まあ仕方ない。
好きな人とこんなシチュエーションだなんて、気持ちが高ぶるに決まってるもん。



「ダ、ダイゴさんのえっち!セクハラです!」

「そう?でも、好きなんだよね?」

「うっ……ずるくないですか、その質問」

「ふふ、大人ってずるい生き物だよね」

「まさにあなたですよ!」



ねえ、どうなの?
僕のこと、どこまで許せる?
どのくらい好きって言える?

………そう言って彼は私の体をゆっくり撫で回していく。

どのくらい好きかなんて、そんなの決まってる。
こうして体に触れられても、どんなことされても許せちゃうくらい好きなんだから!



「あの、逆に聞きますけど、ダイゴさんはどうなんですか?」

「……僕?うーん、そうだね、僕はいっそのこと食べてしまいたいくらい好き、かな」

「本当に?」

「うん、好き」

「じゃあ両想いじゃないですか…!」

「…………そうだとしても、君に僕のことを受け止めきれるのかい?まだ未成年の君に」

「何言ってるんですか、たかが数年私より長く生きてるからって」

「大事なことだよ」

「……私も、一緒です。そんなこと聞かれなくても、私だってダイゴさんと同じくらい好きです!」



声を大にして伝えると、ダイゴさんは切なそうに顔を歪めた。
なにか間違ったことを言っただろうか?



「あまり大人をからかわないほうがいいと思うよ」

「からかってませんし!」

「……その物怖じしない姿勢は君の長所だけれど、」

「……それって、」

「でも、少し懲らしめてあげないとわからないかな」



私の言葉を遮って、ダイゴさんは顔を近づけてくる。
好きな人とキスしてるだなんて、昨日の私が知ったらなんて思うだろう?
というか、どうしてこうなった?
成り行きとはいえ、ダイゴさんの考えも読めない。



「ん、んんっ?!……やっ、…ん…っ」



やがて舌が入り込んできて、深く深く絡め取られる。
こんな体がびくびくと震えあがるキスは初めてだった。
脳がとろけそうなくらい思考回路がぼんやりしているのに、さすがダイゴさんは大人だなあ、なんて思っている自分もいた。
慣れてなくて息継ぎもできない私のことを思ってか、苦しくなりそうなギリギリのところで少しだけ動きが止まる。
私が空気を吸えたのがわかると、また同じように塞がれた。

薄くまぶたを上げれば、こちらを相変わらず見下ろしている瞳と視線がぶつかった。
それはまるで、どこまで我慢できるかを窺っているかのような……

ちゅ、ちゅ、ちゅ、と彼の唇がまぶた、頬、首筋、鎖骨、と降りていく。
ようやく解放された私はというと酸素を取り入れるのに必死だった。



「どうだい?」

「っは、ぁ……どう、って……?」

「僕のこと、受け止める自信はあるのかな」

「……もちろん、決まってるじゃないですか」



だって、どうしても好きなんだもん。

……そう伝えると、ダイゴさんは一瞬固まって、そのあとくすくすと笑いだした。



「はは、なまえちゃんにはまいったよ」

「え?」

「ここまでされてまだ好きって言えるなんてね。わかった、僕も覚悟を決めよう」

「え、ダイゴさん、どういう、」

「君はまだ若いし、これから僕なんかよりももっといい人に巡り会えるはずだけれど………でも、もう、君から逃げないよ」

「……それじゃあ、」

「うん。これからもよろしくね、」

「……!!」



なんだろう、よくわからないけれど、とりあえず私の恋は実った……らしい。
にこやかに笑うダイゴさんは、試したりしてごめん、なんて言って優しいキスをくれた。



「今度、ひどいことをしたお詫びをしなくちゃだね」

「いいんです!ダイゴさんが私のものになってくれるなら!」



これ以上の幸せはない、から。





2015/02/05 

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