「……………え、」



恋人らしいこと、したいです。なんて言ったら、目の前の彼は本を持ったまま固まった。
せっかく家まで遊びに来たというのに、ゲンさんときたらさっきからずっと読書ばかりだ。(ちょっとつまらない)
だからその不満をぶつけてみようと、独り言のように口に出してみたのだけれど……私、なにか変なこと言っただろうか。



「ど…どうしたんだいなまえちゃん」

「どうもしません」



きっぱりと告げる私は彼の目を真っ直ぐに見据えて。
少なからず焦っているらしいゲンさんの顔は、珍しく少しひきつっていた。
私はそんな表情を見たのは初めてで、こんな顔もするんだ、とか感動しながら彼の返事を待つ。



「まさか………欲求不満?」

「違…います」

「そうか。ならよかった」

「……なにがよかったんですか」



ほっと安心した表情になったゲンさんが気に入らなくて、ついとげとげしいことを口走ってしまう。
まだ私を子供扱いしてる?
この間やっと想いが通じたと思ったのに。

よし言おう。
今日こそははっきりと言ってやるんだ!



「ゲンさん」

「…なに?」

「私、あなたから見ればまだまだ子供かもしれないけど、でも私だって、」

「分かってるよ、なまえちゃんはもう立派な女性だ。それは分かっているんだけどね」



でも、まだ早いんじゃないかな。

………それが子供扱いしてるって言うんですよゲンさん。
そりゃあゲンさんは大人だし紳士だしかっこいいし、私なんかお子ちゃまで相手にするのも億劫なのかもしれないけど…
でも私だって、傷つくんです。
女の子として見られてないんじゃないか、とか。
他にもいろいろと。

あなたと、もっと一緒にいたいです。
くっついたりとか、したいです。
手も繋ぎたいし、キスだってしたい。

ゲンさん、女の子はいつだって不安定なんですよ。
好きな人のことを想うと、幸せになる分、不安にもなるんです。



「私、淋しい、です」

「淋しい?それはまた唐突だね」

「キスしてください」

「!」



私の発言を耳にした途端に目を見開いて、ぴしりと固まる彼をよそに、私は目を閉じる。
案外、ゲンさんは意志で手を出さないんじゃなくて、照れ屋なだけなのかもしれないと思った。



「なまえちゃん、そういうのは女性から強請ってはいけないよ、」

「……どうして?」

「………男がね、止まらなくなったら危ないだろう?」



そう言つつくれたのは、軽く触れるだけのキスだった。
でも初めて、唇にしてくれた。



「……ゲンさんなら、いいです」

「そういう可愛いこと言うと、なまえちゃんが後で後悔するんだよ?」

「しま、せん」

「やれやれ、」



本当に君は誘うのが上手だなあ、いつもひやひやするよ。

そう言ったゲンさんは、もう一度キスしてくれた。





(青年と少女の葛藤)



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