「なまえ、」 こんな気持ちを抱いたのは何年ぶりだったろうか。 好き、だなんて、自分から。 いや……もしかしたらこれが初めてなのかもしれない。 「なんです?」 名前を呼べば、すぐに近寄ってきてくれる。 まるで犬みたいだ、なんて内心思っていたり。 そんなこと言ったらきっと僕は、そこら辺にある書類か何かで叩かれるんだろうけど。(意外とこの子は僕に対して遠慮がないんだよね、) 「ちょっと用事があるから出てもいいかい?」 「…………」 「はは、そんな疑った目で見なくても」 「そんなこと言って、実は洞窟に行くつもりでしょう」 「…なんだ、やっぱりばれてた?」 「当たり前です!」 ちゃんと仕事してくださいよ!!なんて言って、大量の紙の束を僕のデスクに置くなまえ。 彼女は鈍くて、……だからきっと気付いてないんだろう、僕が君を困らせたくて何かと面倒事を起こすこと。 今のは、仕事に集中していた彼女と話すきっかけが欲しかっただけなのだけど、ね。 僕たちが出会ったのは、僕がチャンピオンの座を降りて親父の会社の副社長に就任した頃だった。 運命なのかどうなのかは分からないけれど、その時になまえはぼくの秘書になったのだ。 この部屋にはたいてい2人きりだというのに、あの時から別に変わったことはない。 なまえは仕事は出来るし、それなりに美人だし、多分料理も出来るんじゃないかと思う。(1人暮らしらしい上に、いつもお弁当だから) 確か友好関係も広い……だったかな。 それはつまり、僕以外の男とも接しているということだろう? ………妬けるな、 なんて、恋人でもなんでもない僕が言っていい台詞のはずないけれど。 ぼんやりと彼女の姿を眺めていたら、いつの間にか近くに来ていて、起こったような顔で見下ろされた。 「副社長、サボらないでくださいってば」 「名前で呼んでよ」 「なに寝言言ってるんですか」 「ねえ、早く、」 「はあ?嫌です」 「まったく、この僕にそんな口聞けるのなんて君くらいだよ」 「…………すみません」 「ああ、別に怒ってないよ。むしろその方が、嬉しいからね」 …だってほら、遠慮がない方が距離が近いように感じない? 「距離、ですか」 「うん」 「…何の?」 「………ふふ、やっぱり鈍いなあ、」 どうしたら、君を振り向かせることが出来るのだろう。 (僕の気持ち、行き場がないんだ) :)確かに恋だった 戻る |