“俺の婚約者でもある”
その言葉が脳内をぐるぐるとまわる。
なに、それ?
婚約者ってどういうこと……?
ねえ、本気なの?
本気でこの人と結婚するつもりなの?
ねえ綱吉、どうしてこんないきなり……
だって記憶を失ってからまだ数ヶ月しか経ってないじゃない。
その短い間に……いつの間に恋人つくってたの?
この女の人のこと、結婚したいと思うくらいに好きなの?
こんなの、嘘でしょう?
ねえ綱吉……っ!
「はじめまして、みなさん」
にこり、ルイと紹介された女の人が笑う。
なんで…?
笑った顔も私にそっくり……
「よろしくね、ゆりさん」
「えっ?」
「あなたのこと、綱吉からよく聞いているわ。ずっと会いたいって思ってたの!」
「そ、そう……」
ふふっと綺麗に笑う彼女に対して、私はきちんと笑顔で返せてるのだろうか?
………ううん、きっと私の顔は引きつってる。
それに、声も震えてる。
ごめん、ごめんね。
あなたに非は無いって分かってるの。
私たちの過去のことを知らないのだから。
でも、ね。
どうしてもこのもやもやとした黒い気持ちを消すことが、できないの………
ごめんなさい……
本当に、ごめんなさい……っ
「………」
じっと顔を覗き込まれて、私は思わず視線をそらす。
それを見た彼女は意味深に笑って――――――――……‥
「ふふ、やっぱりなにも知らないのね」
「え……?今、なんて……」
「……ああ、私はここへ来たのは今日が初めてだからね、知らないことばかりで不安だな、って言ったのよ」
「……………」
また、にこりと笑う。
……聞き間違いだったのかな。
あれはまるで、私に向けた言葉のように感じたけれど……
「ねえ、あなたのことゆりって呼んでもいい?お近づきになりたいの」
「え、あ、いいです、けど……」
「本当?じゃあゆりも私をルイって呼んで!あ、敬語も無しよ?」
「………わかった、ルイ」
「ありがとう!」
「いいえ、改めてよろしくね」
終始笑顔な彼女につられて、私もにこりと微笑む。
……ルイに非はない。
だから、公私混同しないようにしなくちゃ。
せっかく彼女が私と仲良くなりたいって思ってくれてるんだもん。
その好意を踏みにじることなんて、できるわけない。
私だって、友達が増えて嬉しいはず………
なのに。
どうして涙が出てくるの?
かなしいなみだ
(頭では理解しているはずなのに)
(どうして抑えられないの)
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