昔から憎かった。
アイツが。
マフィアだから憎いとか、黒曜の時に負けたから憎いとか、そういうのも多少はある。
けれど、もっと大きな理由は……
ゆりを、悲しませたこと。
ゆりがボンゴレに入ってきたとき、彼女に焦がれたのは綱吉だけではなかった。
部下の中にだってきっと彼女を想っていた人はいるだろう。
………それに、僕だって。
ゆりのことを愛していた。
でも彼女が選んだのは綱吉で、だから僕は何も告げずに身を引こうと決めた。
ゆりが幸せになれるのなら、相手は誰でもいい。
ゆりが選んだのだから。
僕が口出しする必要はない、………と。
でも彼は、彼女を悲しませた。
……それがどうしても許せなくて、つい暴言を吐いてしまったのだ。
「お前にそんなこと言われる筋合いはない」
「…ああ、そうですか。あんなにゆりを傷つけておいて」
「そ、れはっ、」
「……………」
「……………」
しばしの沈黙。
綱吉の顔を見れば、酷く苦しそうな表情だった。
……少しばかりやりすぎたかもしれない。
そんなこと、今頃後悔しても遅いけれど。
「……少し言い過ぎたようですね。頭を冷やしてきます」
「……ああ、」
くるり、背を向ける。
ゆりの病室からも、綱吉からも。
ゆっくり歩き出せばコツコツと自分の足音がした。
「分かってるつもりなんです。貴方には記憶が無いのだから、今回のことも仕方ないということ………でも、どうしても許せなかった」
ぽつりと呟いたこの言葉は、彼に伝わっただろうか…
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「……橘は?」
「寝てる」
あれから、俺は病室に入った。
骸に会う資格なんてないと言われていたけれど、そんなの関係ない。
俺が橘のことを心配だから、様子を見たい。
それだけ。
「その様子じゃ、骸から状態を説明されたようだな」
「リボーン………」
「大事をとって、5日間入院だそうだ」
5日間、か。
良かった、どうやらそんなに重体じゃないらしい。
「どこで倒れたんだ?」
「……敵地で、タガールを仕留めてすぐだぞ。外に逃げようとして、倒れたんだ」
「それで無事だったのか?」
「見て分かるだろ。俺を誰だと思ってんだ」
「………あ、そう」
まあリボーンと山本なら橘を担いで逃げることくらい出来る…か。
今回の任務は結構難しいものだったし、とにかくみんな無事で良かった…
「安心すんのはまだ早ぇぞ。退院するまで、な」
「……分かってる」
眠り姫は知らない
(俺と骸の言い争いなんて、)
(知るはずがない)
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