静かな昼下がりのことだった。
俺はいつものように書類に目を通している。
それは抗争などで破壊してしまった店や家屋などへの損害賠償請求書だったり、はたまた、ボンゴレが誇る研究班の研究成果を記したレポートだったり……とにかく形式を問わず多種多様だった。
もちろん、他のファミリーからの大事な連絡文書なども含まれているけれど。

目を通して、印を押して…………はっきり言ってすごく面倒な作業だ。


はあ、本日で何度目かの溜め息をつく。
そこへ山本が駆け込んできた。



「山本?」

「っ、は、ツナ…っ」

「どうしたんだよ、そんな息切らして」

「ゆりが、今、病院に…っ!」

「はあ!?病状は!」

「まだ聞いてねえ!」

「っ、くそ…!車を出せ!」





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あれから俺は山本に連れられて、橘が運ばれたという病院まで来ていた。
この病院はボンゴレ御用達で、この間まで俺が入院していた場所だ。

車を降りて、病院の中へと急ぐ。
病院内は走っちゃいけないと分かっているものの、そんなことを気にしている暇はなかった。

一応、橘だって俺の部下なのだから…………心配くらいはする。
きちんと仕事はこなしてくれていたし、サポートも申し分なかった。

思い返す限り全てにおいて完璧に済ませてきたアイツが、なぜ運ばれる羽目に……?



「騒がしいですよ」

「む、くろ…!」



俺達の足音を聞きつけたのか、橘の病室らしき部屋から出てきた骸。
どうやら相当イライラしているようで、発言からもそれが感じ取れた。

特に気に留めず、会話を続ける。



「橘は」

「この中です」



そう言われるのが早いか、歩き出すのが早いか……俺は山本と共に病室へ入ろうと体を動かす。

しかし、俺だけ阻止された。



「なんだよ骸」

「貴方に、ゆりに会う権利があるのですか」

「は………?」

「わけがわからないとでも言いたそうな顔ですね?…ゆりが倒れたのは疲労と、積み重なる精神的ダメージが原因だそうです。これが何を意味するかわかりますか」

「………何が言いたい」

「ここまで言ってもわからないとは…つまり全て綱吉のせいということですよ!」



全て、俺のせい?
橘が倒れたことが?

疲労と、精神的ダメージ…

俺はどちらにも関係してないと言い切れる。
仮に疲労は、スケジュール管理だのサポートだの任務だの、色々任せっきりにしすぎた俺に非があるのかもしれないが、でも精神的ダメージなんて与えた覚えないし、もちろん、いじめた覚えだってない。
それなのに、なぜ?



「貴方は、ただゆりを悲しませるだけの存在でしかない」

「な、に言って……」

「知ってますか?貴方が出ていけと言ったあの夜、彼女が外で泣いていたことを。あれから、ゆりは貴方に冷たくされる度に泣きそうな顔をしていた。それが彼女の精神に負担をかけたのですよ」

「冷たくなんか…!」

「してない、とでも?あんな態度で優しく接していたつもりなのですか」

「っ、」

「クフフ、図星で言い返す言葉もないでしょうね。おめでたい人だ、ゆりがどんな思いで側にいたかも知らずに。………なのに、貴方が気まぐれでたまに優しくすると、幸せそうに笑うんです」

「俺の前で笑ったことなんてない!」

「それは綱吉が彼女から目を逸らしていたからでしょう!貴方って人はつくづく嫌な人ですね!」



珍しく声を荒げる骸に、俺は思わず俯いてしまった。

笑っていた?
アイツが、俺の前で?
いやまさか、そんなこと………だってアイツは、いつだって俺には無愛想で………



「今の綱吉にゆりに会う資格などありません」



その骸の言葉が、ずっと頭の中で響いていた。

………なんで俺が、こんなことを言われなきゃならない?





傷付けて、傷付いて

(俺は橘の負担になっていた…?)






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